無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ポップ職人のプライド。

Welcome Interstate Managers

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 1999年に発表された前作『ユートピア・パークウェイ』。個人的なことをいうと、それまでの人生で最も大きな失恋をした僕を癒してくれたのはこのアルバムだった。人を感動させ、高揚させる術を知り尽くしたかのような完璧なメロディーとコード進行は、甘酸っぱい青春時代の記憶のように鮮烈で清々しいものだった。
 その前作から実に4年ぶりの新作。1曲目から、至福のメロディーに心が洗われていくよう。ギターリフをフィーチャーしたパワーポップ、アコースティック、サイケ、カントリーなど、曲調はさまざまだが、目指すところは全て「メロディー」と「ポップ」その一点に絞られている。どこのレビューでも書かれているので繰り返すのはイヤだけど、1〜3曲目の流れは悔しいくらいに完璧。思う存分KOされていただきたい。歌詞の内容もバラエティに富んでいる。友人の女の子の母親を好きになってしまった男の子、試合終了直前にタッチダウンを狙うアメフトの選手(岡村ちゃん「僕がロングシュート〜」の世界)、待っても待っても来ないウェイトレスを嘆く客、両親が旅行したのをいいことにはじけまくる子供、そして、あの娘のことを歌ったラブソング。曲の中に登場するさまざまなキャラクターは特別変わった人間ではなく、僕たちと同じく、普通に生活している人々だったりする。彼らのストーリーが、最高のメロディーとハーモニーに乗り、楽しくかつ切なく胸を通り過ぎる。全体通して、これまでのアルバムより往年の偉大なポップスの先達への敬意が感じられるメロディーやアレンジが多いのだけど、決して後ろ向きな音にはなっていない。こうした音楽が当然今でもコンテンポラリーなものとして通用するのだという確かな意思とプライドが感じられる。
 彼らのようなバンドを聞くとほっとするし、自然と顔がほころんでくる。大切な宝物として、CD棚にしまっておこう。