無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

覚醒のスターセイラー。

Silence Is Easy

Silence Is Easy

 サマーソニック2003で目撃し、一気に期待が高まったスターセイラーの2作目。これが期待通り、というかそれ以上のすばらしいものだった。サマソニで既に披露されていた曲も多く、実はサマソニで僕が感じた風通しのよさ、開放感の大部分は新作からの曲によってもたらされていたことが判明した。そう、このアルバムは本当に外に向かって開かれている。手を広げて聞く者が来るのをいまかいまかと待っている。そしてそれを受け入れる体制が完璧に出来上がっている。
 前作はイギリス本国ではバカ売れしたらしいし、日本でもUKロックの新風、みたいな感じで取り上げられていたと思うのだけど、僕はどうにも若いのにヘンに老成した感じなのがいまいち好きではなかった。ジェイムズ・ウォルシュがソウルフルで歌が上手いヴォーカリストなのは充分わかったけど、ミドルテンポの曲が多く、単純に地味で飽きてきてしまうというのもあった。しかしその点今作はどの曲にも実に明確なサウンドプロダクションが施され、元々のメロディーのよさと相俟って音の一粒一粒がきらきらと輝いている。前作からの2年の間にどのような変化があったのかはわからないが、何かひとつ壁を突破するブレイクスルーが彼らの中に生まれたのは確かじゃないかと思う。"Music was saved"と歌われているのは、彼ら自身の偽らざる本音ではないだろうか。今作が放っている輝きは音楽に対する喜びと感謝の現われであるように思う。
 フィル・スペクターが殺人容疑で逮捕される前に20年ぶりに2曲をプロデュースしているというちょっとスキャンダラスな話題もあるが、そんなことはこのアルバムの前では蛇足に過ぎない。全11曲捨て曲なし。クライマックスの"Born Again"は涙が出るほど感動的だ。まさに生まれ変わったスターセイラー。個人的には、このアルバムで彼らはコールドプレイが昨年セカンドで覚醒した域に接近しているとすら思う。ノーザン・ソウル、という言葉の意味がわからなかったらこのアルバムを聞くといい。