無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

世界を描くことの重さ。

Absolution

Absolution

 前作『オリジン・オブ・シンメトリー』から約2年半ぶりのMUSEの新作。すでに前作のネジ外れっぷり、針振り切れっぷりからイギリス国内の枠を飛び越え、世界でもオンリーワンの独自性を持つに至ったわけだが、今作でその方向性はさらに推し進められている。ハードな曲はとことんハードに、マシューの超絶ギターテクニックを惜しげもなく披露する。そしてリズム隊の重厚さも格段に増している。ピアノ、ストリングスを用いた楽曲は既にロックという枠からはみ出てクラシックそのものという域にまで達しつつある。そんなありえないような幅を持つ音楽のフィールドを実に優雅に、そしてものすごいスピードで駆け抜けていく。その行為自体は実に爽快だ。
 しかし、このアルバムは聞き終わった後、その爽快感よりも重苦しい空気が漂う。端的に言ってスカッとしないのだ。それはなぜかというと、このアルバムが「9.11」以降の世界をテーマにし、現在の世界を彼らなりに噛み砕いて映し出したコンセプトアルバム的な作りになっているからだ。独自の哲学観と世界観をこれまでも披露してきたマシュー・ベラミーのこと、歌詞も非常に重く、示唆に富み考えさせられるものになっている。表現者としてどうしても避けて通れなかったものではあるのだろうが、音楽的なエネルギーとダイナミクスがテーマの重さのために開放され切れていない気がする。すごくもったいないし、もどかしい。ライブで自分に花吹雪をかけるようなおバカな(失礼)姿が本作からはなかなか見えてこないのだ。
 もう一度書くけど、今作でMUSEの音楽の独自性はさらに確固たるものになったと思う。それは、かつてのクイーンに匹敵するほどのものだろうとも思う。そこまで思うからこそ、こういうテーマを扱うにしろもっと別の落とし所があったんじゃないかな、と思えてしまうのだ。頭が良すぎるのかな?でももっとすごいバンドになると思う。彼らは。ここで満足しないでほしい。