無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ストロークスがスペシャルな理由。

Room on Fire

Room on Fire

 いわゆるロックンロール・リバイバルの流れの発端となり、隆盛を誇っていたヘヴィ・ラップ・ロックを衰退させるきっかけにもなった『IS THIS IT』からすでに2年以上が過ぎた。この間、相変わらずハイプだと非難され続け、長いツアーで疲弊し、次作への少なくないプレッシャーと戦ってきたストロークスの状況は、いつ潰れてもおかしくなかったものだろう。ナイジェル・ゴドリッチをプロデューサーに迎えるという話に始まり、来るべき新作の噂が出ては消えていった。リバイバルブームも玉石混合で自然淘汰されるようになりつつある中、本家ストロークスの新作が「ようやく」世に出たというわけだ。
 昨年のツアーから演奏されていた新曲や、サマーソニック03でも演奏されたも新曲も多く収められている。どれもこれも一発でストロークス!と思わせるシンプルで味のあるメロディーとバンドアンサンブル。古着屋で見つけた掘り出し物のようにクールで、かつ体にぴったりと入ってくる。しかし正直、前作と比較してややインパクトに欠ける点は否めない。とは言え、本作は前作で提示したストロークスのサウンドをきっちりと進化させた真摯な作品だと思う。あの状況の中ここまできっちりと次の一手を打ってきたことにこのバンドのタフさを感じた。なんでもジュリアン・カサブランカスは前作以降、ここに収められた11曲以外の曲を書いていないのだそうだ。書いた曲全てを徹底的に練りこみ、アルバムを作ったんだそうだ。カッコいい。ツアーの成果かバンドのグルーヴは極めてタイトになったし、ギターやベースのフレーズにしてもかなり考え抜かれた跡がそこかしこに見られる(実際、僕はサマソニで思った以上に演奏が上手くて驚いたのだった)。そしてけだるそうなジュリアンのボーカルはソウルと深みを増し、平熱の中にギラギラと野心を燃え滾らせている。全11曲、30分強という瞬間風速的なアルバムが2年間待ったファン全てを納得させるかどうかはわからない。それでも、僕は数々のハードラックを乗り越え、自分たちの未来をその手で切り開いた本作を手放しで評価したい。このアルバムが世に出たこと自体が、今の時代のロックンロールに対する勇気そのものだからだ。
 ロックンロールは、孤独と絶望の中に光を求めてあえぐ若者がいる限り決して死ぬことはない。ロックンロールは、その定義からして常に甦り続けるものなのだ。そのことを改めて21世紀に刻みつけたストロークスというバンドはやはり特別である。