無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

そしてロックになった。

12 Memories

12 Memories

 トラヴィスの4作目。『THE INVISIBLE BAND』以降、ドラマーが事故で頚椎を骨折し、ミュージシャン復帰も危ぶまれるほどの重症から復帰してのアルバム。当然のように美しく世界を塗り替える絶対的なメロディーは健在だが、前作までのトラヴィスとは少し違った印象を受ける。
 前作まで僕がトラヴィス、というかフラン・ヒーリーという人に持っていたイメージは、音楽(彼の場合はメロディー)でしか世界とつながれない、繊細な音楽探求者というようなものだった。音楽を創ること、美しく心に残るメロディーを紡ぐことがフランにとっての存在証明であり、自分の外の世界とのコミュニケーションであるという、ギリギリのところで鳴っている音楽だと思っていた。というか、それは今でもそう思っている。だからこそトラヴィスの曲は、他の凡百のメロディー重視バンドと一線を画すリアリティをもっているのだと思う。しかし、今作におけるフランは、決してそのように自分の内的世界に閉じこもっているのではない。詞の内容は明らかに現在の世界に対する問題意識を伴うものが多くなった。2曲目の「美しき占領」なんて、モロにアメリカに対するオピニオンだろう。トラヴィスがここまで直接的に政治色の強い曲を出すとは、正直言って驚いた。フラン・ヒーリーはミュージシャンとして、もっと広い世界を表現したくなった、ということだろう。自分の中だけではなく、その自分を取り巻く世界との関係、そこで感じる違和感、その原因、を曲にし始めていると言える。サウンドも耳当たりのよいものばかりではなく、曲の求める表現に従ってかなり歪な音像を醸し出すようになっている。つまり、トラヴィスは美しいメロディーを堅実な演奏で表現するポップ・バンドから、ロック・バンドへと変化し始めているということだ。詞の内容がいかんせん一面的に見えるきらいはあるものの、方向性としては歓迎すべきことじゃないだろうか。願わくば、そのためにメロディーという絶対の武器が後退して本末転倒になってしまわぬよう。