無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ラスト・サムライ。

ZAZEN BOYS

ZAZEN BOYS

 繰り返される諸行無常
 2002年11月30日にナンバーガールがその歴史を閉じてからこのアルバムが発売されるまで13ヶ月強。新しいバンドを立ち上げてアルバムを作るにしては決して長い時間ではない思う。向井秀徳の頭には次にナンバガで鳴らすべき音がはっきりと見えていたはずだ。解散により新たにZAZEN BOYSという形にはなったが、ここにある音が彼の中でナンバガの延長線上にあると見て間違いはないだろう。
 昨年のライジングサンフェスでの初ライブよりも当然演奏は洗練されまとまっているが、向井の口から出てくる言葉や、基本的なバンドの持つ音像はほぼあの時の印象のままだ。彼には今、明確に外部に発したい音と言葉があり、それをナンバガ解散時からずっと磨き続けていたのだろう。しかも、それは恐ろしいまでの純度で研ぎ澄まされている。アヒト・イナザワのドラムという、絶対的なサウンドの軸は不変だが、バンド全体のアンサンブルの印象はナンバガとは全く異なる。そして向井のボーカルの印象も全く異なる。かつての、コードすらわからないほどに歪みまくったギターや、言葉が聞き取れないほどの絶叫、耳を劈くような轟音アンサンブルはこのアルバムにはない。1曲目からして聞いたこともないような向井のファルセットボーカルがフィーチャーされている。曲によっては、メロウでたおやかなという表現がふさわしいようなものもある。シンプルな構造のサウンドから見えてくるのは向井秀徳という人のメロディーメイカーとしての才と、聞くものの耳に届く確かな力をもった「うた」の存在である。
 ダブ的なサウンド処理も、歪なヒップホップとでも言うべき言葉の羅列も、単純にそれがやりたいという音楽的欲求ではなく、トータルに向井自身の目指す「ロックンロール」を表出させるためのツールに過ぎない。バンドとしては何の変哲もないオーソドックスな編成でありながら今まで感じたことがないような新しい興奮と異物感が宿っているのは、演ずる側に明確なサウンドスケープと徹底的に己を見つめ、妥協を許さない冷徹な意思があるからだと思う。向井の鳴らすストロークは達人の居合抜きのように鋭い。このアルバムはゴールでもなんでもない。決して完璧なアルバムではない。向井秀徳という男の断固たる意思が踏みしめた新たな一歩に過ぎない。心から祝福したい。