無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

三年殺しはロシアのサンボの裏技さ。

新しき日本語ロックの道と光

新しき日本語ロックの道と光

 アルバムタイトルは否が応にもフライングキッズ1990年の第2作目『新しき魂の光と道』を思い起こさせる。ポップス志向を強める前、ゴリゴリのファンクテイスト溢れる歌謡曲というような歪で、しかもカッコいい音を鳴らしていた時代のフライングキッズが残した快作。アレンジから何からかなりの遊び心が満載で、暴走一歩手前の若気の至り感が今聞いてもイタイようで楽しいようで胸の奥底をキュッとつかまれるような気分にさせてくれる。(既に廃盤のようで非常に残念)で、その、歪でカッコいいというのは確かにまんまこのアルバムにも当てはまる。
 欧米のロックンロールの起源がブルースをアンプで増幅し、リズムを性急にしたものだとすれば、日本のそれは演歌やワビサビの世界が起源であると言える(我ながら最高に乱暴な理論だ)。でもそんなことを大真面目に考えさせてくれるような暑苦しい快感をサンボマスターからは感じるのである。歌詞以外の部分で何を言ってるのか聞き取れないほどのとことん高いテンションで繰り出される演説(?)と、マシンガンのように放射される言葉。その「キてしまっている」感が個人的にかなり爆笑のツボ。笑えるロックはすべからく素晴らしいという僕の持論に真っ向から飛び込んでくるバンドと言える。そしてよく聞くと非常に艶やかなメロディー。演奏は決して上手くはないがザクザクとケモノ道を切り開くような力強い推進力に満ちている。とにかく全編「これしかない、やるしかない」という熱いハートが漲っていて気持ちいい。燃え尽きるほどヒート。ほとんどの曲のテーマは一言で言うと「愛」。やっぱり暑苦しいけど、不快ではなく、気持ちいい。
 ただ、このあまりにも高いテンションと暴発的なボーカルスタイルの中でせっかくの言葉や日本語の豊かさが埋もれてしまっているのはもったいない。ぶっちゃけ、英語で歌われてても変らない(というか、わからない)だろう。抑えたボーカルで一言一言を大事に歌い紡ぐ「この世の果て」が際立って美しくストレートに耳に届くという事実。「新しい日本語ロックの道と光」はその先に見えてくるんじゃないだろうかと思う。