無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

麗蘭 Jumps again。

SOSが鳴ってる

SOSが鳴ってる

 言うまでもなく、仲井戸麗市土屋公平のユニットなわけだけど、定期的にライブは行っていたし、昨年(2003年)のライジングサンでも新曲を披露していたりしたのでライブDVDなり新作なり何らかの動きはあるのかもしれないと思っていた。というところで発表された『麗蘭』から実に13年ぶりのセカンド。その間、93年にライブアルバム『宴』(限定生産だったので今は廃盤。でも名盤)、シングル「マンボのボーイフレンド」は発表したけれど、リリースとしてはこれだけの間があいた。しかしまあユニットの性格や両人のソロ活動も考えればそんなに頻繁に麗蘭としてのリリースがあるわけでもないのはわかっていることなので、こうして再び新作が聞けることを素直に喜ぶべきだろう。
 蘭丸という人はスライダーズ時代はハリーの影で彼を立てていたし、自身のユニットThe99 1/2でも、自分が前面に立つのではなく外部からボーカリストを呼んで裏方に徹していた。基本的にこういうやり方が彼の性に合っているのだろう。自分が尊敬する、あるいは一緒にやりたいと思っている人の能力をを開放させることが、蘭丸のミュージシャンシップをも満足させるのだと思う。麗蘭でもそれは同じで、チャボという人の才能を奔放に飛び回らせることがこのユニットの肝であり、蘭丸の役割なのである。チャボはチャボで信頼できる裏方に支えられ、自らのソロよりも気軽に音楽に向かっている気がする。ソロとなればやはり自らの内面や自分の立っている場所や、周りの状況や、様々なことと向き合ってそれを言葉にし、音楽に乗せなければならない。少なくともチャボという人はそういう部分でウソのつけない真摯な人だ。麗蘭では全く逆ということはないが、それよりも単純に「こいつと演ってると楽しい」的なリラックスしたムードがある。いい意味で非常に趣味的なのだ。チャボにとっても蘭丸にとっても、自分のソロの本流とは別に息抜き、ガス抜き的な意味をもつ活動として麗蘭はあるのじゃないかと思う。
 といっても、本作の歌詞は全体に軽くはない。「SOSが鳴ってる」というタイトル曲にしてもそうだし、「悲惨な争い」など、明らかに9.11以降の世界を憂い、その中で自分は、人々は何を考えどうあるべきかということを問い掛けるようなものが多い。が、それでも愛と希望を忘れないという、シンプルで力強い肯定があるところがいい。「今 I love youを君に」などはまさにそうだ。そしてもう一つ、麗蘭の曲の中には前作から通ずるテーマとして「先達への敬意」というものがある。自分が子供の頃好きだった、そして今でも好きな曲、それを生み出した偉大なミュージシャン達への愛、ひいては音楽というものに対する愛と感謝である。前作では「今夜 R&Bを…」という名曲があった。ラストのリフレインでR&R、R&Bの偉人達の名前を連呼するのだが、それがとてつもなく感動的なのである(最後にジョン・ベルーシが来るところが個人的にものすごく好き)。今作にもその系譜に属する「GET BACK」、「R&R Tonight」という曲が収められている。両方ともライブですでに聞いたことのある曲だけど、非常にいい。音楽に触れたばかりの少年のような心で、チャボは音楽への愛と感謝を歌うのだ。麗蘭というユニットがシンプルに音楽の喜び、楽しさを感じられる場所だからこそこういう曲が生まれるのだろう。
 大ベテランの趣味的ユニットと言ってしまうとそれまでだが、素通りできないくらいの音楽的な豊かさがここにはある。むしろ彼らのソロよりもストレートにロックだし、ポップだと思う。一流のシェフが渾身の力をこめて作った賄い料理みたいなものかな。たまにはこういうのも食べないと、胃がもたれてしまうのだ。