無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

戦いとパーティー。

ホット・ソース・コミッティー・パート2

ホット・ソース・コミッティー・パート2

 2009年に一度リリース直前まで行きながら、アダム・ヤウクの耳下腺腫瘍のために延期となっていた『ホット・ソース・コミッティー』。それをミックスし直し、収録曲も含め刷新してリリースされたのが本作『〜パート2』ということになる。インスト作『THE MIX-UP』を挟んでいるので、純粋なヒップホップアルバムとしては2004年の『トゥ・ザ・5ボローズ』以来となる。
 『トゥ・ザ・5ボローズ』というアルバムは9.11テロ以降初めての作品だったこともあり、彼らのNYという街に対するストレートな想いが込められた叙情的な作品だった(失われたツインタワーが描かれたジャケットイラストにもそれは明らかだった)。それから数年経ち、彼らがつむいだ言葉がどういうものだったのかというと、非常に猥雑でパーティ感溢れるものだった。しかしそれは80年代の彼らの悪ガキ感とはもちろん違っていて、変わってしまったNYという街とアメリカという国、もっと言えばこの世界そのものの中で、確固とした決意を持ってパーティーをするのだ、というヒロイズムに近いものである。デビュー曲「ファイト・フォー・ユア・ライト」では「パーティする権利のために戦おう」と言っていた悪ガキどもが本作の「メイク・ザム・ノイズ」では「戦う権利のためにパーティするんだ」とライムしている。目的と手段が逆転しているのだ。それが彼らの20年間の成長であり、ヒップホップが持つ「戦い」の意味がどう変わったかの象徴ではないだろうか。
 アダムの病状はまだ完治というわけには行かないらしい。公式のコメントも楽観できない状況を示している。今はただ、再びステージで動き回る3人の姿を見ることができるよう祈るばかりである。