無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2017年・私的ベスト10~音楽編(1)~

 今年はDJ活動を再開したこともあって好きな音楽に触れる時間が昨年までよりも長かった気がするんですが、かといってじゃあ新しい音楽をたくさん聞いてきたか?というと決してそうではないような気がします。そこそこは聞いたとは思いますが、例えばフェスで若い人たちが盛り上がるような新しいバンドや最新の流行を追いかけるような聞き方はもうしてません(というか、できません)。歳のせいにはしたくないですが、結局自分の好きなもの、そのアンテナに引っかかるものに時間と労力とお金を使いたいのですね。その分出会い頭のサプライズ的な、意図しない新しい音楽との出会いは減ってしまうんですけれど。でも、人生折り返し地点過ぎて死ぬまでカウントダウンと思ったら、そりゃ残り時間好きなもので埋め尽くしたくなりますよ。わざわざあまり興味ないものに使う時間と労力とお金がもったいないのです。と、醜い言い訳をしたところで今年聞いたアルバムベスト10です。ベスト10とは言っても順位にあまり意味はありません。はっきり言って、ベスト3以外はもう同列。その日の気分によって順番どころかラインナップすら変わると思います。今年僕のDJを聞いてくれた人なら、なるほどなと思うようなタイトルが並んでいると思います。


■10位:Pacific Daydream / Weezer

 ウィーザー、通算で11枚目のオリジナルアルバム。前作『ウィーザー(ホワイト・アルバム)』からは1年半。これだけキャリアの長い海外のバンドとしては非常に短いスパンでのリリースだと思います。でもウィーザーって1994年のデビューから割とずっとこんなペースなんですよね。個人的にはウィーザーが一番好きなバンドだ!と思うことは実はあまりなくて、でもずっと身近にいたバンドなので。オアシス亡き今、自分の青春時代からおっさんになった今まで一緒に歩んできた「おれのバンドだ!」と思える存在って今はもうウィーザーくらいしか残っていない気がします。90年代までのウィーザーはポップではあっても少しひねくれていて、歌詞も内省的だし童貞くさいし少しオタク的な印象があったと思うのだけど、ここ10年くらいは逆に、すごくストレートにポップ・ロックを疾走している感が強い。本作もそんな職人技のような眩いギターロックが溢れています。リヴァース・クオモは1970年生まれ。学年で言うと僕の一個上で同世代。そんな彼が陰鬱とした青春時代を超えて本作のような音を鳴らしていると思うと感慨深いですね。

Weezer - Beach Boys


■9位:Colors / Beck

 ベックという人は音楽性の幅が広いのでアルバムのテーマやその時の彼のモードごとに作品のカラーがガラッと変わってしまうアーティストです。前作『モーニング・フェイズ』がサイケデリック・アコースティックな作品だったのに対し、今作はキラキラしたポップ・アルバムになっています。ダンサブルでストレートなポップスが並んでいて、こんなに素直に聞いていて楽しいベックのアルバムは久しぶりと思います。印象としては『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』や『グエロ』に近いかなという感じです。彼のバックボーンであるルーツミュージックの影響をあまり感じなかったりするのはあえて狙ったのかなという気がします。昨今のブラックミュージックの影響を強く感じさせるコンテンポラリーな内容だと思います。プリンスが急逝した後、彼の功績や影響についてベックが語ったインタビュー記事を読んだことがあるのですが、本作のカラーはもしかしたらその辺を反映しているのかもしれません。

Beck - Seventh Heaven (Audio)


■8位:light showers / 藤井隆

 藤井隆の音楽活動は2000年の「ナンダカンダ」に始まるわけですが、当初は人気の出た芸人がお遊びで曲を出した程度に思われていたかもしれません。が、デビューアルバム『ロミオ道行』は松本隆プロデュースで全曲作詩も担当、作曲陣に筒美京平田島貴男堀込高樹キリンジ)らを迎えた本格的なポップアルバムでした。「ナンダカンダ」やセカンドシングル「アイモカワラズ」はあくまでもボーナストラック扱いになるなどアルバムとしてのトータル性にもこだわった、芸人の副業にとどまらないJ-POP、歌謡ポップスの傑作でした。この『ロミオ道行』とセカンド『オール・バイ・マイセルフ』は今でも色褪せない名盤だと思います。彼の音楽遍歴や音楽への愛情は「Matthew's Best Hit TV」などでも開陳されていますが、藤井隆は1972年3月10日生まれで僕とたった18日違い。なので通ってきた音楽体験は非常に近いと推測します。2015年にリリースした『Coffee Bar Cowboy』も西寺郷太NONA REEVES)やtofubeatsが参加し、80sテイストと歌謡アイドルポップスとダンスミュージックを融合させたシティポップアルバムでした。そして本作はさらに豪華。90年代J-POPをテーマに、作家陣には前作に続き西寺郷太、堂島幸平やEPO、澤部渡(スカート)などの名前が並びます。そして全10曲には全て「架空の会社」の「架空の商品」のCMタイアップがついているという設定になっていて、そのCMを実際に作ってしまうという壮大なギミックが仕掛けられています。ちなみにCDパッケージにはそのタイアップ元を記したシールまでついています。その仕掛けもさることながら、どこかレトロ感の漂うサウンドのダンスミュージックは昨今のシーンの潮流ともばっちりハマっていて内容的にも素晴らしい。自分の思春期や青春時代に好きだった曲をプレイリストに入れて楽しむようなことは多くの人がやることだと思いますが、藤井隆はそれを全部新曲でやってしまっているのです。

藤井隆 "light showers" CFまとめ


■7位:Who Built The Moon? / Noel Gallagher’s High Flying Birds

Who Built The Moon?

Who Built The Moon?

 ノエルのソロアルバムももう3作目。正直もうオアシスの再結成がどうということを考える気はしない。そのくらい、ノエルの音楽活動は充実しています。今年で50歳になったノエルではあるけれど、ソングライティングの手腕はもちろん錆びついていないし新しい音楽的チャレンジも貪欲に行っています。本作でもデヴィッド・ホルムスをプロデューサーに迎えて従来よりもエレクトロニック色を強めた曲が並んでいます。オアシスの(結果として)ラストアルバムになった『ディグ・アウト・ユア・ソウル』の先を行ったようなアルバムと言っていいかもしれません。ノエルの書く歌詞は基本的に難しい単語や比喩を使いません。中学生でも訳せそうな英語です。そんな単純な文章やフレーズの中に聞き手は自分の思いを投影するのです。オアシスが「みんなのうた」になりえたのはノエルのそんなソングライティングの資質がやはり大きかったのだと改めて思いました。「シー・トート・ミー・ハウ・トゥ・フライ」なんて本当に何の意味もない曲です(褒め言葉です)。そしてボーナストラックとして収録されている「デッド・イン・ザ・ウォーター」が余裕で圧倒的に名曲という。ノエルの弾き語り系の曲にはハズレがありません。横綱相撲のようなアルバムです。

Noel Gallagher’s High Flying Birds - Holy Mountain


■6位:ダンサブル / RHYMESTER

Danceable

Danceable

  • RHYMESTER
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2200

 RHYMESTERのアルバム、特に『マニフェスト』以降はヒップホップはもちろん、様々なカルチャーに対するメッセージや社会問題、政治的なメッセージ性も強い曲が多かったと思います。もちろんそれをエンターテインメントとして提示できるだけのスキルが彼らにはあったということですが、今作のキモはむしろそこから解き放たれよう、ということだったと思います。J-POPやシティポップ、昨今のR&Bやヒップホップのいいとこどりをしたようなトラックは聞いていてとにかく楽しい。J-POPの流れを汲むラップグループの流行りはもう一段落したような気がするけれど、これは生粋のヒップホップグループがポップに寄せていったもので、基礎工事の太さが違うのです。「梯子酒」のような、大人の悪ふざけとしか思えない曲が入っているのもいいです。KIRINJIをフィーチャーした「Diamonds」はKIRINJIのアルバムにRHYMESTERがゲスト参加した「The Great Journey」に続く名曲だと思います。
 「Future Is Born」や「スタイルウォーズ」の歌詞はヒップホップの歴史や現状にインスパイアされたものでしょう。TVドラマ版「SR~サイタマノラッパー」の主題歌であった「マイクの細道」はややボーナストラック的な扱いではあるけれど、アルバムの締めくくりとしてこれ以上のものはないと思います。全10曲41分というタイトさも大きな魅力。無駄なものが入ってません。RHYMESTERってちょっと怖そう、とか小難しそう、とかいうイメージがある人はまず今作を聞くといいと思います。

RHYMESTER - Future Is Born feat. mabanua

後半は年明けに…皆様良いお年を。