無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ふぞろいのおじさんたち。

電気グルーヴとかスチャダラパー

電気グルーヴとかスチャダラパー

 「おい!そこの中年!」というプリティ・ボイスで幕を開ける本作のテーマはズバリ「おじさん」である(余談だけど、「聖☆おじさん」って、明らかに「ゴーストバスターズ」byレイ・パーカーJrが元ネタとしてあるよね)。30半ばを越えた5人の男による自虐的とも言えるコンセプト設定であるが、意外にこれが一種の清々しささえ感じさせるものになっているのである。電気とスチャダラはデビューこそ同時期だがこれまで一緒に仕事をする機会は少なかったと思う。しかし、メンバーも同年代だし、過ごしてきたシーンも同じだし、見渡してみれば自分らのデビュー時期から生き残っている仲間も少ないしで、すんなりと意気投合したのだと思われる。
 基本的にはスチャダラパーの洗練されたラップを電気のガキセンスが遠慮なく蹂躙していくような、言葉のアルバムである。その中心にいるのはやはり瀧とアニという、両ユニットを象徴する奇人2人であり、その両者が内輪でディスり合う「ANI VS 瀧」と「瀧 VS ANI」は本作の聞き所のひとつと言えるだろう。瀧の日常生活をウォッチした「目ゲキ者!!!!」やアニの嘆き節が哀愁を誘う「羊たちのエレジー」など、5人でワイワイ言いながら作ったんだろうと思わせるものが多い。架空のアニメ主題歌(しかもエンディング)を堀江美都子(!)に歌わせてしまうなど、同世代ならではのコモンセンスがあったればこそだろう。個人的には久々に電気が真面目にラップに向かい合っているのが面白かった。そしてボーズの声というのは一聴しただけで明らかにヒップホップな、いい声だなあと改めて確認。
 サウンド的にはヒップホップに寄るでもなく、テクノに寄るでもなく、両者の中間で気持ちいいところに落としたという印象。どちらのファンにとっても(多分ファン層が重なってる部分も多いと思うけど)納得できるような内容になっていると思う。内輪ウケ度が高めなわりにはポップ感が強い。この辺は、例えば10 年前に彼らがコラボしていたらこうはならなかったと思う。ダテにキャリアは積んじゃいないのだ。チャーミングで、その中にちょっと毒があって、笑えて、ノリは軽いが裏は濃い。僕のように彼らに近い世代ほど楽しめるんじゃないだろうか。おじさんもなかなかかわいいところがあるじゃないか、と思わせてくれるようなアルバム。こうなるとライヴが本当に楽しみだ。