無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

見えないバンド

The Invisible Band

The Invisible Band

 驚くほど何も変わってない。あれだけ成功したアルバムの次ならば何かしら変化とか進歩とかプレッシャーを感じたりもすると思うのだが、このアルバムは見事なまでに前作『THE MAN WHO』の延長線上にある。ここだけ2年前から時が止まってるのかという錯覚に陥りそうだ。
 フラン・ヒーリーのソングライティングは確かに素晴らしい。アコースティックで、楽曲主体のこの手の若いバンドが彼ら以降多く世に出ているが、やはり別格だと思う。「あくまで主役は曲であって、バンドじゃないんだ」というフランの発言は、嘘ではないだろうが、かといって全てだとも思えない。曲が主役とはいえ、それを歌うのは自分であり、演奏するのはトラヴィスというバンドでなくてはならないという思いは彼の中にあるはずだ。それに前作と同じスタイルをここまで踏襲する、職人的な頑固さに彼のアーティストエゴを感じたりもする。『目に見えないバンド』なんて謙虚に言っているが、見方によってはこのタイトルは全く逆の意味を持ってくるのではないか。そこまで行くとさすがに穿ち過ぎだろうか。
 しかし、この美しい楽曲たちが彼らの唯一の自己主張であることに変わりはない。ここまで曲の力をストレートに信じているバンドは今のシーンでも貴重だと思う。