無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

刑務所の中

刑務所の中

刑務所の中

 作者である花輪和一は趣味のモデルガン収集が行きすぎ、改造銃などを所持し、山中などで試射していたことが発覚し、1994年、銃刀法違反容疑で逮捕される。結局、3年の獄中生活を送ることになるわけだが、これは出所後その体験を記した、いわば獄中記である。
 まず、その刑務所の隅々、細部に至る記述に驚かされる。房中の小物、衣服、食事まで、これでもかとばかりに描き込まれている。驚嘆すべき記憶力である。本作が獄中記として異色なのは漫画だからというだけではない。作者本人が反省していないのである。反省というか、懲りてはいるのだとは思う。モデルガンにも興味はなくなったらしい。しかし、世間に対して申し訳ないことをしたとか、そういう意識は全くないのである。まあ、罪状が罪状だし無理はないかもしれない。結果、獄中にいる時間の全てが観察に向いている。確かに、今まで全く無関係な世界に放りこまれたのだから周りのもの全てが興味の対象だろう。それは読者も同じことで、刑務所の中の生活というものがどういうものなのか、その微細な描写にグングン引き込まれていく。塀の中では何ができて何ができないのか、塀の中と外を隔てているものは何なのか、塀の中で生活するものは何を考え、どんな話をしているのか、独特のユーモアを交えつつまるで取材でもしてるかのような客観的な視点で描かれていく。あまりに面白くて一気に読み終わってしまった。
 なんだかこれを読んでいると「刑務所も意外と悪くないな」などと思ってしまいそうだが、やっぱり自由がいいよね。清く正しく生きましょ。