無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

五感で聞くイースタンユース。

感受性応答セヨ

感受性応答セヨ

 『旅路ニ季節ガ燃エ落チル』以降の作品とそれ以前の作品との違いは何かと言うと、その音楽から溢れてくる色彩、「色」だと思う。『旅路ニ〜』では、モノクロの画面に一部カラーが入ったような感じで、そこでハッとさせられる感覚があった。黒沢明『天国と地獄』のラストや、スピルバーグシンドラーのリスト』の女の子の服のように。前作『雲射抜ケ声』ではそれがようやく総天然色になったような感じだった。それが一部のファンを戸惑わせた部分だったのかもしれない。1年10ヶ月ぶりの本作ではその色彩のみならず、朝の空気とか、コンクリートに染み込んだ雨の匂いとか、何とも言葉で表せない感覚まで音の中から立ち昇って来る。五感を駆使して感じたいアルバムだ。
 アルバムの中に、静かな夜明け前から夕暮れ、そして夜までが描かれている。そして夏から冬まで、四季が描かれている。その中で生活するしがない30男の心象風景。圧倒的なリアルとその叙情性。ソレデモオレハイキテイル。轟音と静寂を自在に駆使する音像はリズム隊の充実によって完璧なまでにその世界を表現することに成功している。絶叫の中でもその美しさを失わない絶対無二のメロディー。吉野寿の声はそれだけで芸術だ。
 映画館から出た後、登場人物になりきって町を歩いてしまうことがある。このアルバム(というか、イースタンのアルバムはみんなそうだ)を聞いた後もそれと同じ感じになる。俺は命かけて笑えているか?命かけて泣けているか?ダメで結構、ブッ壊してまた造ろう。
雲射抜ケ声旅路ニ季節ガ燃エ落チル