無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

素のビョーク。

Vespertine

Vespertine

 前作『ホモジェニック』の時、そのプログラミングされたビートとストリングスと彼女の声がまるで肉体と血液と精神のようで、生命そのもののような毅然とした佇まいをもった音楽だと思った。そこから実に4年振りとなる本作はこれまでになく自身の内面を深く抉り取るようなアルバムになった。
 隙間だらけのビートをストリングスが埋めていき、メロディーは既に譜面に落とせないほど奔放に動き回る。前述のように内面に踏み込んだ歌詞が多いのだけど、その視点はどこか達観している。ハイライトのひとつ「イッツ・ノット・アップ・トゥ・ユー」ではなだれ込むようなサウンドに乗って「あなたにはどうしようもないこと、仕方のないことなのよ」と歌われる。自分ではどうしようも出来ないこと。ひとつ上のランクの存在。それは神と言い換えてもいいのかもしれないが(ちなみに僕は無宗教です。あしからず)、なにか超自然的な力の意思を伝える巫女のような存在に、このアルバムでのビョークはなっているように思う。今までになくビョークは他者を求め、自分の弱さをさらけ出している。このアルバムは過去最高にビョークそのものであり、穏やかで優しく、深遠でエロティックだ。
 これは僕の独り善がりの勘違いだと思うけども、聞き終わった後、ビョークとセックスしたような気持ちになってしまった。