無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

日本の神を中心にして。

千と千尋の神隠し (通常版) [DVD]

千と千尋の神隠し (通常版) [DVD]

 監督自身は「10歳の女の子のために作った」と語っているけれど、老若男女あらゆる観客にアピールする映画だろう。しかも『もののけ姫』に比べて格段に敷居が低い。こりゃ客入るよ。
 主人公、千尋が迷い込むのはもちろん監督の作り出した空想の世界なわけであるが、そこには日本人が忘れてしまった日本の神々の姿がある。古事記とか日本書紀とかに出てくるような、八百万の神々だ。千尋は千と名を変えられ、その神々が疲れを癒しに来る湯屋で働くことになる。引越しがいやでムクレていた自分勝手でわがままな現代っ子は、豚に変えられた両親のため、自分を助けてくれた少年のため、自分の力で行動することを決意する。監督曰く、それは成長ではなく発見であると。もともと自らの中にあったものに気付いただけなのだ、と。だからこそ、千尋がスーパーヒロインではなく、どこにでもいる普通の少女であることがこの映画の重要なポイントなのだろう。
 忘れられた神々。汚れていく自然を象徴するオクサレさま。シビアな経営者でありながら子煩悩な母親でもある湯婆婆。欲にまみれ、他人とのコミュニケーションがとれず、思い通りに行かないとキレて暴れる現代人のメタファーとして描かれるカオナシ。この映画の中にはいろいろな形で現在の日本という国が描かれている。物語を通じて、千尋も、ハクも、カオナシも、自分の居場所を見つける。それは、もともとあったもの。忘れていただけのこと。気付いただけのこと。見た後に、ささやかな勇気とさわやかな感動を与えてくれる「発見」の映画だ。映画作家としての宮崎駿は、世界に誇る日本の財産だと僕は思っている。本作が彼の最後の監督作になったとしても、何も文句はない。でもまだやるだろうね、この人は。
 主題歌は反則的なくらい僕の泣きのツボで、しばらく劇場から出ることができなかった。参った。