無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

完璧過ぎる箱庭。

Invincible

Invincible

 後にも先にも一度しかディズニーランドに行ったことがないのだけど、あの、誰かが道端にゴミをポイと捨てた途端にどこからともなくスタッフが現れてささっと掃除する姿に軽いカルチャーショックを覚えたのを記憶している。その、完璧に構築された作りモノのワンダーランドをなんとしても守り抜くという、ある種使命感とも言える切迫した意思に子供ながら畏怖したものだ。マイケル・ジャクソンのフル・オリジナル・アルバムとしては『DANGEROUS』以来10年ぶりの新作。これを聞いた時の印象はまさにこれに近いものだった。
 単純に遊園地としてみればディズニーランドほど楽しめる施設なんて他にはないと思う。このアルバムもポップアルバムとして見れば文句のつけようのない完成度を誇っている。しかし、一つのゴミも許さないそのスキのなさは逆にこちらの思い入れの入り込む余地をも奪い取ってしまうことになりかねない。聞いていて楽しくないわけはないけれども、彼の顔と同じくあまりに人工的に作りこまれた音に対しては単なる「鑑賞」の域を出ない。
 マイケルの単独のペンとプロデュースによる「スピーチレス」や「ロスト・チルドレン」がこの中で浮いて聞こえるくらい感動的なのは象徴的じゃないだろうか。完璧であるがゆえに何かが欠落している。そしてそれがポップエンターテインメントとして最高のレベルであるという、悲しい現実がここにある。