無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

空間と時間の音楽。

ポラリス

ポラリス

 絵画や彫刻に対し空間芸術という言葉を使うなら、音楽というのは時間芸術ということになる。一旦音楽が鳴り始めてしまえば音楽自身がそれをやめるまでその流れは止まることがないものだ。プレイヤーのボタンを押せば止まるよ、という話ではなく、本質的な意味においてはそうだ。その流れは速かったり遅かったり真っ直ぐだったりデコボコだったりいろいろだろう。そして音楽というのは基本的に一度通り過ぎたら二度と同じものは存在しない。いくら同じCDを繰り返しても、空気の湿度、温度、自分の耳の状態など、人間の感覚では聞き分けられないにせよ、全く同じということはあり得ない。時間を戻せないのと同じように、同じ音楽というものには二度と出会えない。だから音楽を聞くということはすごく刹那的な行為であるし、戻る道がないという意味において人生そのものに通じるとも思う。
 オオヤユウスケ(元LaB LIFE)、柏原譲(元フィッシュマンズ)、坂田学のトリオ、Polaris。彼らが奏でる音楽はスッカスカだ。隙間だらけだ。数多のロック、ポップミュージックが様々に音を重ね、ゴテゴテに密度高く飾り立てるのと全く逆の音楽。ダビーにふわふわと気持ちよく浮遊する音は全く澱むことなく美しく流れ続ける。その快感はサイケと言ってもいいほどの覚醒感に満ちている。その隙間だらけの音楽は時間芸術であるのと同時に空間芸術であると言ってもよく、スカスカの隙間を埋めるも、息を吹きかけるも、指で触るも、聞き手の感性次第なのだ。究極のインタラクティブミュージック。
 時間の流れさえも支配できてしまうような、奇跡の音楽がここにまた一つ。