無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

宇多田ヒカルは動き出す。

traveling

traveling

 この曲には自分と誰かとの距離やコミュニケーションを濃密に描き出そうとする意思はない。どちらかと言うと、第3者的に街の風景を切り取りましたという感じの描き方に近い。ミクロな関係性よりももっと広い視点で今の現実の世界を取り巻くムードを俯瞰しようとしているのかもしれない。今の彼女は。けれども、一応主人公らしき設定はあるし、その主人公の主観のようなモノローグが挿入されてもいる(「少しだけ不安が残ります」)。そういう意味ではこの曲に関する限りまだ描き方が中途半端かなと言う気はする(それを完璧にやって見せたのは3枚目までの佐野元春だ)。この曲のテーマを僕が勝手に決めてしまうとすれば、「動かなきゃいけない、何か始めなきゃいけない」という切迫感のようなものじゃないかなと思う。そしてそれは混沌とした世界に対してと、アーティストとしての宇多田ヒカル自身の両方に向けられたものだと思う。デビュー当時のマドンナも真っ青なディスコミュージック、カイリーミノーグも裸足で逃げ出すハイパーハウスビートはそのエンジンとして充分に機能していると思う。
 で、簡単に言うと、おれこの曲すげえ大好きだよと。