無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ブラボー!

 オープニング、赤いカーテンが空き、おなじみの20世紀FOXのロゴとファンファーレ。その前ではスポットライトの当たった指揮者がオーバーアクションでタクトを振っている。最初にこれを見ただけで「ああ、古い映画にオマージュを捧げつつ今のセンスを巧妙にまぶしたギミック満載の映画なんだろうな」と思った。実際、その通り。
 バズ・ラーマン監督は前作『ロミオとジュリエット』(未見)でも結構面白い音楽を使っていたけど、今回はもうまず音楽。基本的にストーリーは古臭く、立場の違う男女の引き裂かれる運命にある悲恋と言ったものだ。聞いただけだとカビが生えてきそうな使い古された物語を、豪華絢爛な1900年のパリ、ムーランルージュを舞台にし、息もつかせぬミュージカルに仕立てることで簡単に飛び越えてしまった。ニコール・キッドマン演じるサティーンが登場するレビュウのシーンで歌われるのはマリリン・モンローが50年代に演じた『紳士は金髪がお好き』で使われた「ダイヤモンドは女の友達」という曲。プロモーションビデオでそのモンローの映画のシーンをそっくりいただいたマドンナの「マテリアル・ガール」をちょこっと挿入するあたり、何とも言えない絶妙なセンス。ユアン・マクレガーとキッドマンが愛を確かめ合うメドレーではフィル・コリンズU2デビッド・ボウイなど、懐かしい80年代のヒット曲がズラリ。それが全く違和感なく、ドラマの台詞として通用するように上手くつながれているのは見事という他ない。ユアン・マクレガー演じるクリスチャンは普段から詩的な言葉で喋る役という設定なので、「僕が彫刻家だったなら…」と言う台詞からいきなりエルトン・ジョンの「Your Song」に行っても全然おかしくない。ムーランルージュのオーナーが、「ライク・ア・ヴァージン」を歌い始めるシーンは最高だ。物語の骨格を生かしつつ、過去の名曲でミュージカルを作るというアイディアは大成功だったと思う。それは主役二人をはじめ、俳優陣の歌唱力が見事だったことも当然、要因の一つ。
 映像としても、ほぼ全てがセットで、箱庭的と言うか、実際に舞台を見ているような気分になる。ラストは悲劇なわけだけど、見終わった後味は悲しさよりは楽しさが残った。本編でも語られるように、これはひとつの美と、真実と、そして愛の物語。1900年のパリを舞台にしたおとぎ話。僕の中ではティム・バートンの『シザーハンズ』にも通じる部分がある映画。面白くて泣けて楽しい、そんな映画。