無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

運命のバンド。

jupiter

jupiter

 幼なじみ4人が楽器を手にし、バンドを組む。その中の1人が稀代の才能を持ったソングライターであり、特別な声を持ったボーカリストであった。彼の作った曲を自分たちの力でどこまで持っていけるだろうか、どこまで誠実に鳴らせるだろうか、を唯一最大の目標に、彼らは運命共同体としての繋がりを感じさせるバンドとなった。バンプ・オブ・チキンに感じるロマンというのは、つまるところそうしたメンバー間の運命的な関係に対する部分が大きいと思う。そして、聴衆は自分が彼ら(の曲)に出会えた事実に、その運命をまた重ね合わせるのだと思う。恐らく彼らは、この先もそうした重荷から逃れることはできないであろうし、それを引きずって行くことを(とりあえず)受け入れた、そういうアルバムであると思う。サウンド的には、音のボトムが低くなり、奥行きは広く、分厚くなった。安定度からすると以前とは比較にならない。加えて言えば、バンドアンサンブルを最大限に活かし、ここまで曲の魅力を効果的に伝え、説得力を持たせるアレンジができるバンドは、実はなかなかないと思う。
 基本的に、今までのバンプのイメージと違うものがここにあるわけではない。相変わらず、彼らの歌にあるのは、生と死の狭間で自分の存在証明を輝かせるために悪戦苦闘を繰り返す人々の姿であり、そうした人々に対する厳しくも温かいメッセージだ。何が起ころうが、周りがどうなろうが、大事なものは常に自分の中にあるということを一貫して一人称の独白なり三人称の物語の中に綴っている。様々な逡巡を経ながら、安易な理想に逃げることなく、がっしりと地面を踏みしめて進むんだという意思がここに鳴っている(天体観測は、地面に立っているからこそできるもの。届かない場所にあるから、自分の位置がよく解る)。そしてプラス、藤原基央という人の弱音もここにある。つくづく、不器用で正直なるバンドだと思う。
 一枚岩の運命を感じさせるバンドというのは、裏を返せばどこか一点でも崩れるとそこで全てが終わってしまう可能性があるということだ(ローゼズもそうだった)。その儚さにも、またロマンを感じてしまうのだと思う。こういうバンドの輝きを同時代に体験できていることを、誰にかわからないけれど、とにかく感謝したい。