無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

LIFE。

Eclectic

Eclectic

 このアルバムからの4曲を試聴した時にまず驚いたのはそのリズムの強さだった。しなやかなでいて、決して折れない竹のような強靭なバックトラック。参加ミュージシャンが誰なのか興味があったのだけど、このリズムトラックだけは全て小沢自身の手によるものだった。二重の驚き。
 「アルバムを作るのに必要な曲を書くためにはその分人生を生きなくてはならない。」これは、なぜアルバムのインターバルが長いのかという質問に対してThe Theのマット・ジョンソンが答えた言葉だ(正確ではないかもしれない)。単純に言えば、このアルバムもそういうことのような気がする。小沢健二が最後のシングル発表から姿を消したこの数年間、このアルバムに至るまでの経緯は今だ彼の口から語られてはいない。インタビューにはいくつか答えているが、核心に触れる質問は巧妙にはぐらかしている。答えるつもりはないのだろう。そして実際その必要もないのだ。このアルバムにその答えがあるということ。具体的なエピソードではなく、彼がどのように感じ、どのように生き、どのように愛しているのかがここに記されている。自分自身の奥底まで向き合って手にした本物の音と言葉。その神々しいまでに透徹した佇まいにため息が出るばかりだ。
 もはや表面的な音のジャンルなどというものは意味を持たない。ひとりのミュージシャンが辿り着いた聖域とでも言うべき作品だと思う。恐らく彼自身、今の日本のシーンの動向など全く気にしていないのだろうが、このアルバムを正面から受け止める土壌が今の日本にはあるはずだ。それは幸福なことだと思う。