無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

UKロックの救世主たり得るか?

See This Through and Leave

See This Through and Leave

 ここ何年か随分騙されてきたから、というと言い方が悪いけれど、実際「UKロックの救世主!」的物言いにはちょっと猜疑心を持つようになってしまった。確かにUKのギターロックに元気がないというのはわかるけれども、ホントに現状を変え得るアーティストなんてそうそう出てくるもんじゃないと思う。結局は自分の目と耳で確かめるしかない。
 さて、本作は昨年EP1枚で衝撃のデビューを飾り、フジロックにも上陸した「救世主」待望のデビューアルバム。これはなかなか面白いアルバムで、このアルバムを一枚通して聞いても「これこれこういう音のバンド」とは一口に言えない多面性がある。それは昨年のEPにも同じ印象だったのだけれども、やりたいことが多すぎるのか、1曲1曲ごとに、もっと言えば1曲の中で展開が目まぐるしく変化していく。それを統一感がないとかとっ散らかったという風に受け取る人もいるだろう。ある意味新人バンドのデビュー作としてはリスキーなアプローチとも言える。オーソドックスなギターロックもあれば、サイケっぽい展開の曲もあるし、デジタルな音像の曲もコラージュ風のインストもある。ラスト2曲(ボーナストラック抜き)の重厚さなど、20歳そこそこのバンドとは思えない。アルバムの中で一貫しているとすれば、実験的であろうとする意思、のようなものだろうか。自分たちはこういう幅広い音楽をこういうやり方で見せていくバンドなんだ、という強烈な先制パンチのようなアルバムだ。6人組だけあって音は分厚く、そしてどの曲もメロディーの骨格がしっかりしている。同時期に聞いたヘイヴンに比べるとメロディーそのもののUK臭さは希薄だけれども、サウンドの雰囲気にどこか霞がかった暗さが漂うあたり、UKっぽいなあと思う。面白い。若さの勢いはあるけれど、詞の内容は生死観を扱ったものもあり、結構暗い。「おれたち見て見て」的なナルシズムではなく、醒めた視点を持っているのはいいことだと思う。
 この1作でどうこうというより、このバンドがこの先どうなるかという未来に大きな可能性を感じる。気が早いようだけど、過去いくつもしぼんでいった「救世主」の系譜に連ならないためにも、大事なのは次の一手だと思う。