無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

憂国の士。

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 パーティーで楽しいヒップホップ。前向きに明日を語るポジティブなヒップホップ。俺がナンバーワンだ俺を見ろヒップホップ。一口にジャパニーズヒップホップといってもいろいろな形があるわけなのだけど、世の中の歪み、社会の矛盾を告発し、その中で自分はどう生きていくべきかと言ったヘヴィーな問題を扱うものもその中にはある。Shing02はそういう類のアーティストだ。ヒップホップに限らないけれども、こういったテーマを扱う場合、説教臭くなりすぎると音楽としてのエンターテインメント性、機能性を失ってしまうことに繋がる。Shing02は圧倒的なトラックの素晴らしさ(DRY&HEAVYの秋本武士が最高の仕事)と、ライムも含めた音楽の構成力で見事に80分通して聞かせてしまう。聞くときの精神状態によっては疲弊してしまうこともあるかもしれないが、「44戒」なんかの言葉の連射は単純に音として気持ちいいレベルのものだと思う。ここにある言葉を鵜呑みにしてしまってもいけないが、自分で何かを考えるきっかけには十分なるだろう。そういう啓蒙性を持った音楽だ。パブリック・エナミーがジャーナリスティックだったように、Shing02もそうだ、ということ。
 和太鼓を用い、日本語の語彙をフルに使い、日本の社会の現状を鋭く斬る。こういう音楽が海外で多くの時間を過ごした人から生まれてくるというのはすごく複雑な気持ちになる。日本という国で僕らは今何をしているのだろうか。こういう音楽ばかりだと疲れてしまうけれども、でも誰かが言い出さなければならないことというのもあるのだ。ヒップホップという音楽はそういう目的には非常に合致した形態だと思う。(もしかすると、だからShing02はヒップホップをやっているのかもしれない。わからないけれど。)ただ、IQの高い音楽であることは確かで、どうしても頭でっかちになるきらいはある。その辺ライブだとどういう風に肉体性を持たせているのかが気になる。