無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

閉じたロマンティシズム。

1/6 LONELY NIGHT

1/6 LONELY NIGHT

 お笑いとか、シアトリカル(演劇的)だとか、他流試合的な要素を音楽に持ち込んだ場合、気をつけなければならないのは他の要素に音楽が負けてしまうことだ。クレイジーキャッツにしろ米米クラブにしろ、偉大な先達は例外なく音楽的に素晴らしい作品を残している。自分たちがやっていることに説得力を持たせるためには音楽を磨くしかない。氣志團は、それを非常によくわかっているバンドだと思う。
 彼らが本当に元ヤンキーなのかどうかはわからないが、彼らが青春時代を過ごしたであろう80年代後半〜90年代前半の文化、つまり当時のアイドル歌謡曲であったり、少年マガジン等のヤンキーマンガであったりを実に巧妙にその楽曲、バンドキャラクターの中に落とし込んでいる。素晴らしいセンスだと思うし、インディーズからこのメジャーデビュー作に至るまでそのバンド内世界に全く綻びがないというのは驚嘆すべき事実だ。自分たちのキャラクターを完璧に演じているという意味で、バンドコンセプトとしては聖飢魔IIに近いと言えるかもしれない。綾小路翔という男は只者じゃない。とてつもない頭の良さを持った男であり、プロデューサーであり、コンセプトメイカーであると思う。
 「永遠の16歳」というのは、16歳の頃が良かった、あのままでいたかったという後ろ向きなモラトリアムではなく、16歳でい続ける事を自ら選んで決意したということだ。だから彼らの描く青春時代の甘酸っぱい世界は強烈に切なく胸をかきむしり、「止まれ時よ」という言葉が鋭く突き刺さるのだ。単なる色モノだと思っている人は絶対に損をしている。真正面から向き合わねばならない、恐るべき才能を持ったバンドだと思う。