無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

山下達郎の普遍性を噛み締めた夜。

山下達郎 Performance 2002 RCA/AIR Years Special
■2002/05/06@北海道厚生年金会館
 山下達郎約3年ぶりのツアーは、1976年のソロデビューから6作目の『FOR YOU』までのいわゆる「RCA/AIRレーベル時代」のアルバムがデジタルリマスターされ、ボーナストラックを追加して再発されたことを受けてのものだ。よって、演奏される曲は全てこの時代のもので構成されると言う、変則的なものになっている。つまり、「ゲット・バック・イン・ラブ」も「クリスマス・イヴ」もなしなのだ。この日のセットリストは以下の通り。「オン・ザ・ストリート・コーナー」からのア・カペラを除けば、確かに1976〜1982年の曲ばかり。達郎氏のコンサートはいつも比較的年齢層が高めではあるけど、会場を見てみると特に今回はその傾向が強いような気もする。バックを務めるのは前回のツアー「Performance98〜99」の時のメンバーと全く一緒。20年前から同じメンバーも多い、おなじみの顔ぶれ。
 20年以上前の曲ばかりで構成されていると言っても、全く古臭さを感じないその音楽性の一貫ぶりには感嘆せざるを得ない。1曲目の「SPARKLE」のギターカッティングが鳴った途端、「うわあ、レコードと同じ音だ!」と誰もが思うことだろう。達郎氏曰く、「20年前と同じギターを使っているから同じ音が出るんですよ」とのことだけど、そんなことをさらっと言えてしまうミュージシャンが他にどれだけいるのだろうと思ってしまう。大体、こんな古い曲だけでまわるツアーなんてアイディアを実行してしまうこと自体、自分の音楽に対する自信が無ければできないことだと思う。
 ステージセットはビルボードやジュークボックスなど、様々なモチーフにRCA/AIR時代のアルバムタイトルが描かれている、カラフルでポップなデザインだった。コンサートパンフの表紙は鈴木英人氏。その爽やかな世界に触れるだけで個人的にも20年前にタイムスリップしてしまいそうだった。コンサートは達郎氏の落語家顔負けの軽妙なMCをはさみつつテンポよく進む。繰り返すけど、出てくる曲出てくる曲全て20年前の曲なのに全く古さが感じられない。もっと言えば今でも達郎氏は同じ音楽をやっているのだ。バンド形式だったり打ち込みだったりスタイルは変われども、基本的には全く同じものだ。曲の中に描かれる風景であったり、アイテムであったりが懐かしいことはあっても、その音楽そのものがナツメロになってしまうことはあり得ないのだ。信じられないことだと思う。そして、今回演奏される曲の半分、具体的には『RIDE ON TIME』より前の曲と言うのは彼の最も売れなかった時代、不遇の時代のものである。今では彼も笑い話のようにネタにしているけれども、当時の状況というのは彼の音楽スタイルに少なからず影響を及ぼしているはずだと思う。シュガーベイブ時代、とあるロックイベントに出演した際に観客のブーイングで1曲も演奏せずに引込まざるを得なかったということもそうだろう。いつか周りを見返してやる、この音楽でお前らをあっと言わせてやる、という思いを、若き達郎氏はずっと抱き続けてきたのではないだろうか。彼のあまりに一貫した普遍性を持つ音楽に触れるたびに、僕はそういう反骨精神、言ってしまえばロック的なエモーションを感じ取ってしまうのだ。「LET'S DANCE BABY」のラストの「BABY」連発や、「RIDE ON TIME」の最後、台に登りマイクを使わないボーカリゼーションなど、彼のコンサートでは恒例となっているパフォーマンスは、例えば忌野清志郎氏のそれに通じるようなものである。断固としたポリシーのもとに辿り着いたエンターテインメントとしての芸である。それは彼らにしか許されない聖域のようなものなのだと思う。
 とにかく、その音楽性の高さ、緻密に構成された世界観の揺るぎなさ、各メンバーの安定した演奏力、エンターテインメントの極致と言える素晴らしいステージだったと思う。来年で50になる達郎氏の声も多少かすれ気味だったかもしれないけど、ほとんど衰えは感じない。終わってみればアンコール含めてほぼ3時間半というサービス満点のステージ。このエクストリームな内容も、こじつけかもしれないけどブルース・スプリングスティーンのそれに通じるものを感じるよ。本当に、日本が誇るアーティストだと思う。まだ現役バリバリで彼が音楽を作っていることを僕達は感謝しなくてはいけないと本当に思う。
 個人的には、「LET'S DANCE BABY」で初めてクラッカーを鳴らせたのが嬉しかった。大満足。

■SET LIST
1.SPARKLE
2.LOVE SPACE
3.ついておいで〜WINDY LADY
4.RAINY WALK
5.あまく危険な香り

6.RAINY DAY
7.PAPER DOLL
8.CANDY
9.SOLID SLIDER
10.MUSIC BOOK
11.言えなかった言葉を
12.2000トンの雨
13.YOU BELONG TO ME
14.BLUE VELVET
15.ANGEL
16.いつか
17.MONDAY BLUE
18.TOUCH ME LIGHTLY
19.LOVE TALKIN'
20.BOMBER
21.SILENT SCREAMER
22.LET'S DANCE BABY
23.CIRCUS TOWN

24.LOVELAND, ISLAND
25.RIDE ON TIME
26.LET'S KISS THE SUN
27.YOUR EYES
28.おやすみ