無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

不完全な自分を愛せ。

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ [DVD]

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ [DVD]

 オフ・ブロードウェイでロングラン公演し、マドンナやデヴィッド・ボウイも夢中になったというミュージカルの映画化。監督、脚本、主演のジョン・キャメロン・ミッチェルはもちろん、キャストの多くも舞台と同じらしい。
 ヘドウィグは、東ベルリンに生まれ、アメリカ兵と結婚しアメリカに渡ろうとする。そのために股間の男性器を切ることになったが、医者がヤブだったために1インチだけ残ってしまった。結局アメリカ兵はヘドウィグの下を去り、残されたヘドウィグはアングリー・インチというバンドを率いてその日その日を暮らしていた。そんな時、17歳のロック好きの少年トミーに出会う。ヘドウィグはロックスターを夢見るトミーとともに演奏を始めるが、トミーもヘドウィグの下を去り、しかもトミーはヘドウィグの書いた曲を自分の曲として歌い、全米No.1のスターになってしまう。ヘドウィグはアングリー・インチとともに、トミーのアメリカツアーを追いまわし、今日も場末のバーで演奏する―。というのが簡単なストーリー。
 ヘドウィグのケバケバしいメイクと衣装、そしてドラッグクイーンという設定から、70年代グラムロックの匂いがかなりする映画だけれども、それだけじゃない。この映画のテーマソングとも言える「オリジン・オブ・ラブ」という曲は、簡単に言うとこんな内容の歌だ。「人間は元々ひとつだった。人が力をつけすぎたために神は人を恐れ、雷を打ち2つに切り離した。別れた半身はお互いに残りの半身を求める。それが愛。それがセックス。愛の起源の物語。」
 不完全な自分の半身を求める。そう、これはあまねく全てのロックに通じるテーマではないか。ある者はそのためにギターを手にし、ある者はそのために自分の部屋で音楽を聞く。ヘドウィグや、他の登場人物達は皆どこか歪で、自分には何かが足りないと思っている。でもそんな彼らを笑ったり目をそむけることなどできない。なぜなら僕らもそうだからだ。不完全な自分。その象徴としての1インチ。「もう1人の自分」探しの旅。この映画は、全ての迷える人間に対しての愛情を持ったロック・ロード・ミュージカル・ムービーだ。スティーブン・トラスクによるオリジナル曲がどれもこれも素晴らしい。サントラも必聴。