無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

北の国から'02。

Sell Our Soul

Sell Our Soul

 シンプルでミニマムで、時に呪術的とも言えるトラックに乗る辛辣な言葉。それは確かに攻撃的だけど、聞いていて気分が悪くなる類のものではない。ここで繰り返し出てくる周りへのディスは、自分の信ずるビートとライムを偽りなくとことん掘り下げて搾り出しているという自負と、札幌という非中心の場所でそれをやり遂げているという誇りに裏打ちされたものだからだ。一つ間違えれば自分の振り下ろした刃が自分に返ってくるということをわかった上でやるべきことをやっている、その自信を根拠としているからだ。そしてそれを証明するように、ここに収められた音楽は圧倒的な存在感で僕の日常を侵食していく。僕の周りにあるリアルを描いているわけでは全くないのに、ここで語られる言葉は僕の日常を支配していく。それは、彼らが全くもって真実を射抜いているからだと思う。特に13分以上にわたって描かれる「路上」のストーリーは圧倒的だ。1年間、日本を飛び出し旅をしてきたBOSSの見た風景がここに結集している。圧倒的に悲しく、そして美しいカルマの物語。限りなく行き場のない底を描いていても彼らのヒップホップにはどこか希望がある。アルバム中唯一といえる叙情的な「SMILE WITH TEARS」の、冷たさの裏に見え隠れする包容力に、個人的にグッときた。BOSSの声はどんなに激しくラップしてもやわらかさを失わない、天然のピュアネスを持っている。冷凍庫の中にいるような独特の冷気を漂わせるO・N・Oのトラックとその声が合わさった時、日本において唯一無二の孤高のヒップホップが生まれる。
 昨年の初頭に出たザ・ブルー・ハーブ・レコーディングのオムニバス盤『ONLY FOR THE MINDSTRONG』に収められた「時代は変わる」で僕は最初に彼らの音楽に衝撃を受けたのだけれど、すでにそこから階段二段飛ばしで駆け上がってしまったような印象を受ける。名盤だと思う。