無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

正攻法のサスペンス。

 冒頭のタイトルバックがえっらいカッコよい。これだけでおおっ、デビッド・フィンチャーやるなあ!と思った。あとは、カメラがコーヒーポットの取っ手をくぐるシーン。これはビックリ。刺激的な映像作家としてのフィンチャーにさすがと唸るのは実はこのくらいで、後は実に正攻法でがっぷり脚本と四つになった映画だった。
 夫と離婚し、二人で郊外の大きな一軒家に越してきた母娘。その引越しの夜、その家にいまだ隠されたままの前の持ち主の遺産を狙って3人組の強盗が現れる。二人は防犯用のパニック・ルームに逃げ込み難を逃れるが、強盗の狙う遺産はまさにそのパニック・ルームの中にあるのだった…。というストーリー。
 映画は、家の中でのたった一晩の間の親子と強盗の攻防を描いている。空間的にも時間的にも、そして登場人物も限られた中でのドラマ、となると舞台のような雰囲気も漂う。例えば、三谷幸喜あたりが扱っても形になりそうな話だ。パニック・ルームの分厚い壁をはさんでの犯人と親子の攻防は非常にスリリングで、犯人の仲間割れや娘の病気など、不確定な要素も手伝ってドラマは一気にクライマックスへと加速する。犯人役の3人がちょっとキャラ的にステレオタイプすぎかなと思う部分もあって、脚本としてはやや弱いとも思ったけど、映画の雰囲気全体の重厚さがそれをカバーしてしまった印象。デビッド・フィンチャーの演出は前述のとおりすごく正攻法で、だれることもなく、安定して見ることができた。こういう映画も撮れるんじゃん、とちょっと見直した。
 最初は二コール・キッドマンが母親役にキャスティングされていたそうだけども、結果としてみればジョディ・フォスターで正解だったんじゃないかな。キッドマンだと、ここまで母親の包容力というか、強さというか、簡単に言うと母性?そういうものは出なかったんじゃないかと思う。なんとなく。娘役のクリステン・スチュワートがいい演技をしていて、この子、あと何年かしたら(ルックスも含めて)すごくいい女優さんになるんじゃないだろうかと思った。ちょっと覚えておこう。