無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

OneとFiveの関係。

TOKYO CLASSIC

TOKYO CLASSIC

 宇多田ヒカルの『Deep River』の時にも書いたのだけど、音楽にとって大事なものはやっぱり聞き手がどう感じるかという結果なのであって、それをどうやって作ったかという技術的な議論は僕はどうにも苦手なのだ(だから「Player」系の雑誌とか全然興味がない)。もちろん一部の人にとってはそういうものも大事なのだろうけど、どんなに最新のテクノロジーや斬新な技術や素晴らしい楽器が用いられたとて、出てきた音楽がつまらんものでは全く意味がないと僕は思っている。
 リップ・スライムの最新作。本作でも、個々のラップのスキルなりFUMIYAのトラックなり、聞く人が聞けば「すげーこれ」というものがいっぱい入っているのだろうけど、そんな大仰さなど微塵も感じさせないこの入りやすさ。聞きやすさ。小難しい理屈など吹き飛ばす楽しさ。リップの素晴らしさとはまさにそこにあって、だからこそこれだけのマスアピールを手にできたのだろうと思う。
 各MCのソロ曲をフィーチャーした本作は、完成度としては前作『FIVE』には及ばないけれども、各メンバーのキャラ立てがしっかり見えることもあり、モー娘。的、おもちゃ箱的なバラエティ感覚に満ちている。個人が好き勝手なことをやっていて、各々グループに対しての距離感を持っているからこそ、「One」や「花火」のようなセンチメンタルな曲がいっそう感動的に聞こえる。一見とっ散らかった印象のアルバムを5人揃ったナンバーがきっちり締めているという感じ。「花火」という超絶名曲の印象が強く残ることもあり、「夏ですね」というイメージのアルバム。
FIVE