無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

リンダリンダラバーソール

 大槻ケンヂが、10数年前のバンドブームの時代を振り返り、様々なエピソードを回想しつつ描く自伝的青春物語。懐かしい名前がこれでもかというほどにたくさん出てくる。僕自身、実は「イカ天」を毎週のように見ていたし、CDも買っていたし、モロにブームの中で踊っていた人間であるので、そういう過去の狂騒を思い出して面白おかしく読めた。特に筋肉少女帯ナゴム時代、人生の頃のピエール瀧石野卓球の話などは抱腹絶倒モノ。丁寧に書かれた各バンド、アーティストの脚注を読んでいるだけでも楽しい。
 バンドブームの中急激に時代の真ん中に担ぎ出され、わけも分からずに世の中の流れに飲み込まれていく若者たちの姿。オーケンははっきりとそれを過去のもの、過ぎてしまった青春時代、としてややノスタルジックに描く。そしてそこには自分たちのように失敗はするなよ、という、おっさんから今の若い世代へのアドバイスのようにも見えるのだが、それは取り越し苦労というものではなかろうか。今のシーンは10年前ほど脆弱ではないし、聞き手もやる側もそう簡単に流されないだろう。ロックが上手く時代との付き合い方を学んだ、といえるのかもしれない。
 ほとんどノンフィクションと言っていい内容だとは思うのだけど、全編通じて軸となる主人公(オーケン)とコマコとのロマンスとその顛末だけはどうしてもウソ臭く見えてならない。ただ、このエピソードが何よりもこの本のノスタルジーを支えているのも事実。そこは気にせず半ノンフィクション小説として楽しめばいいのだろう。
 10年前かあ。そりゃあ年もとるはずだよ。