無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

青い春。

ピンポン ― 2枚組DTS特別版 (初回生産限定版) [DVD]

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 松本大洋原作の傑作青春スポーツマンガの映画化。監督は『タイタニック』のVFXを担当し、本作が初監督作となる曽利文彦窪塚洋介主演、脚本は宮藤官九郎、音楽はスーパーカーにまりんに卓球にブンブンと、様々なところで話題になっている映画だ。
 結論から言うと、非常に原作に忠実に作った映画といえると思う。監督・脚本ともに原作の大ファンだというのだからある意味当然ではあるけれども、よくここまでやったなあというのが素直な感想。監督のキャリアから過剰な期待をするかもしれないが、VFXシーンは最小限。卓球のシーンにしても、あからさまな特殊撮影シーンはない。ダイナミックな試合シーンを作るために通常の撮影ではできないことを特殊技術を使って補っているという感じだ。このアプローチは正しいと思う。原作から抜け出してきたかのようなスマイル役のARATAをはじめ、キャストは良かった。特にアクマ役の大倉孝ニは素晴らしい。ただ、ペコ役の窪塚洋介だけがなんとなく浮いてしまっていた。
 子供の頃は誰しも「この星の一等賞になる!」と思ったりヒーローになることを夢見たりするものだ。しかし大人になるにつれ自分がそうではないことに気付き、どこかで諦めてしまう。チャイナ、ドラゴン、そしてアクマは、凡人でしかない僕たち大勢の象徴だ。諦めなかったからこそ(そしてそれだけの才能があったからこそ)ペコはヒーローなのであり、彼をヒーローと信じつづけたからこそスマイルはラケットを置いたのである。ペコ役が浮いてしまうのはある意味しかたがないことなのかもしれない。彼だけが僕ら側の人間ではないから。しかし本作が感動的なのはペコは超人的なヒーローではなく、挫折し、努力し、再生というドラマがあるからこそだ。スマイルが自分は「やっぱり」ヒーローになれないことを確信した瞬間、「お帰り、ヒーロー」の台詞は泣ける。単純なスポ根に終わらず、シニカルだけど本気で熱い、シリアスだけどどこか軽い、つまり青春の映画。
 ただ、この映画が素晴らしいとするなら、やはりそれは原作が素晴らしいから、ということに尽きるだろう。それは否定しない。でも、あの世界をここまで作ったことは偉いと思う。
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