言うまでもなく
くるりはロック・バンドなわけだけど、ここまではっきりとロック・バンドであることを主張し、腹くくったアルバムを出したのは始めてだ。昨年の「
百鬼夜行」でも発表された新曲がいくつか収められている。そのとき感じたのはメンバー各人の楽器から醸し出されるエロティックと言ってもいいくらいの妖しいグルーヴだった。ぐるぐると渦を巻き、どこまでも深く潜っていけそうなアンサンブルの魅力は今までの
くるりとは明らかに違ったものだった。このアルバムで言うと、「花火」〜「黒い扉」と続く
プログレかと見紛うほどの壮大な展開。それをがっしりと支えるバンドとしての基礎体力が
くるりにはある。それを可能にした最も大きな要因はやはり
クリストファー・マグワイヤという国内基準では推し量れないスケールを持ったドラマーの加入だが、それだけではなく、他の3人も自分の持ち場でしっかりと主張しているからだろう。特に達身のギターの進歩は素晴らしいと思う。惜しむらくは、アルバムの中で楽曲の出来にややムラがあること。別に全曲が完璧である必要はないと思うのだけど、なまじバンドの状態がいいだけに、曲そのものがたいしたことなくてもそれなりのレベルに仕上げられてしまうのだろう。かつて
くるりは打ち込みを用いたさまざまな実験を行い、フロアとの一体感の中で世代やシーンを代表するアンセムを作ろうとしていた。今は、今だからこそ、ロック・バンドのフォーマットの中でそれを行うべきだろう。「ロックンロール」は完成形じゃない。そこに至るまでのスタートであり、偉大な一歩だ。今の
くるりにはそれくらいの期待をかける価値がある。