無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

吉井和哉の見つめる闇。

at the BLACK HOLE (初回生産限定盤)

at the BLACK HOLE (初回生産限定盤)

 イエモン休止から3年、ようやく届いた吉井和哉のソロデビュー作は、予想以上に暗く、重いものだった。とは言えポップのど真ん中で華やかにスポットライトを浴び、メガセールスを誇るバンドのフロントマンのソロ作がそれとは真逆な性質のものになるのは桑田佳佑の例を出すまでもなく珍しいことではない。このアルバムの本質はそんなところにはない。
 イエモンでとことんカリカチュアライズされた「ロックスター」であった吉井は、ここであまりにも赤裸々に自分自身と、その周りの状況、空気、つまりは自分のいるその世界を曲にしている。イエモンの後期にもそうした作風はあったが基本的な視点が3人称から1人称になったという部分でまったく異なるものになっている。特にバンドからソロに至る自らの心象風景を描き出した「FALLIN' FALLIN'」などは非常に興味深いし、本作のひとつの肝だと思う。サウンド的にもほとんどデモテープのような無造作な作りのものもあって、明らかにソロとしてのYOSHII LOVINSONイエモンのようなバンドスケールを求めていないことが分かる。正直、このアルバムが大衆的な支持を得られるかと言われればYESとは言えない。吉井ももはやロックスターである自分を引き受けようとはしていない。しかし、このアルバムはどうしようもなくロックだ。彼の視線の先にはブラックホールのような漆黒の闇が広がっている。
 ラスト、アルバムタイトルが冠せられたインスト曲で、チープなキーボードの音色によって1曲目「20GO」のフレーズが奏でられる。終わりは始まり。無限の循環の中これからも音楽を続けて行くという、ソロとしての決意を見せつけられた気分だ。ライヴ活動が再開したとしたら、そこにはどんな空間が広がって行くのだろうか。考えただけで身震いがする。