無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

HARRYはまた走り出す。

Bottle Up and Go

Bottle Up and Go

 ストリートスライダーズは、ハリー、蘭丸、ジェームズ、ZUZUという4人でなければありえないバンドだった。けれども、どこからどう見たってハリーのバンドだった。スライダーズというバンドの歩んできた道程は、すなわちハリーというミュージシャンのそれだったと言える。そんな、自らの分身と言えるバンドが解散した後、彼が一体どのような形で音楽に向かうのか、心配していた部分はあった。スライダーズ時代にも隠遁生活をして姿をくらました時期がある人だけに、このまま一線から消えてしまうんじゃないだろうか、という不安が頭をよぎっても何の不思議もない。そういう人だった。
 昨年、WEEKEND LOVERSでのステージを見て、まずその不安は消えた。アコギ一本でステージ立つ彼の姿は非常に溌剌としていて、歌うのが、ギターを弾くのが楽しくて仕方がないという感じだった。初めてギターを持った中学生のように笑顔を見せる彼の姿に、僕はいい意味で裏切られたのだった。来るべきソロアルバムは、このライブの形を踏襲したアコースティックでブルージーな雰囲気のものになるのだろうか、とも思った。
 そしてスライダーズ解散後約2年半を経て出た、ハリーの初ソロアルバム。これがまた、いい意味で裏切られた。全編バンドによる、軽快でアッパーなロックンロールアルバムだった。「〜さ」「〜だぜ」という言い回しも、ハリーのボーカルのハリ、ツヤ具合も、シンプルだけど力強いギターのストロークも、スライダーズ時代を凌駕する勢いで耳に届いてくる。あれだけのバンドの後、ここまで自分のスタート地点をリセットして新鮮な気持ちで走り出せるアーティストはそうはいないだろう。でもそうだ。スライダーズというバンドは、頑固なロックンロールバンドに見えて、常に新しい形のロック、新しい音を模索しているバンドだった。そして、ハリーは、そのバンドそのものだった人だ。歌詞にも音にも、新しいスタートを切った喜びが溢れている。道さえあれば十分なのだ。
 5月病になる前にこれを聞け、てな感じのアルバム。