無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

何が見えるか。

其処カラ何ガ見エルカ

其処カラ何ガ見エルカ

 レコード移籍後会社初となる、約1年半ぶりのアルバム。鉄壁のアンサンブルは更にお互いの音と密接に絡み合い、パンクだとかエモだとかなんだとか関係なくイースタンユースでしかありえない独自の音像を作り上げている。数年以上に渡るエディ・アシュワースとのコラボレーションも完成の域に達したと言えるだろう。
 アメリカツアー、レコード会社移籍など、バンドとして対外的な刺激を受ける出来事が多かったせいか、「世界」という言葉が一つのキーワードになっているアルバムだと思う。割れ響く耳鳴りのような世界の中でいかに己が己であるべきか。それを自問自答する、求道的なアルバムだと思う。世界を、他者を意識することはつまり、徹底的に自己の奥深くへと視点を移すことであるという、逆説的な真理をアルバムを通して語っている。
 本作には、暴力的にヤケクソになる瞬間や、どうすればいいか分からずに悶え苦しむ眩暈のような瞬間がない。冬の木枯らしにポケットから手を出せないでいたとしても、歩むべき道は変えない。徹底的に自分を見つめ、世界と対峙する。そんな静かな決意と覚悟を感じる。自由には責任がついて回る。この世界で自由でいられるだけの覚悟が果たして俺にあるのか?そんな吉野の問いは、そのまま僕達にも飛んでくる。イースタンユースの音楽は得てして怠惰に傾きがちな自分の生活への気付け薬だ。漫然と聞き流すことなど決して許されない。