無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

HY、その眩しさと影。

Street Story

Street Story

 最近の若いバンドの傾向として、速いビートとわかりやすいメロディーの上に希望と明日と友情を乗せて大声で歌うと非常にすんなりと世の中に受け入れてもらえるらしい。そこに少しヒップホップからの影響が見えるとミクスチャーということになってもっといいらしい。で、それが今風なロックだったりパンクだったりということにどうもなっているらしい。反吐が出る。あの「贈る言葉」とか。ほんともうどーでもいい。
 沖縄の5人組HYの初フルアルバム。メンバーほとんどまだ20歳前くらいらしい。ここにある音は非常にわかりやすい。彼らが何に影響されたのか、瞬く間に分かってしまう。歌われている歌詞はと言えば、自分を信じてとか、光に向かってとか、愛とか友情とか希望についてのものだ。じゃあ、HYが前述のような僕が今一番嫌いな若いバンドのひとつなのかというと、そうではないと思う。頭使わずに、闇を知らずに希望や光を歌っているのではなく、彼らの眩しすぎる光の中にはきちんと影があると僕は思う。それは何かというと、彼らが沖縄出身で、今も沖縄にいるということだ。別に沖縄出身のバンドやミュージシャンみんながそうだとは言わないが、モンゴル800のように沖縄で生まれ育ったことに誇りを持ち、自分の故郷の文化を重んじ、それをアイデンティティとして掲げる若い人たちは少なくない。歌詞の上でそこまではっきりと現れてはいないが、HYも間違いなくそうだ(バンド名からして)。自分たちの生まれ育った島がどういう歴史を歩み、親やその上の世代が何を体験してきたのか、彼らは知っている。そして、それは音楽とか関係なく彼らが生きていく上での前提になっている。改めて言葉にするまでもなく、当たり前のものとして彼らの中にある。そこから放たれる気恥ずかしいほどに眩い光は、根拠のないポジティブさなど吹き飛ばす説得力を持っていると思う。
 音楽としてはお世辞にもオリジナルとは言えないし、拙くもある。でも、18や19で完成されたバンドやミュージシャンなんて逆にウソ臭くて僕は全く興味ない。彼らが信じて歌う希望や光を、彼ら自身の音楽で実現できる可能性を彼らは秘めていると思う。今はそれだけで十分じゃないだろうか。