トレヴァー・ホーンプロデュース(!)のベル&セバスチャン最新作。映画「ストーリーテリング」のサウンドトラックがあったけど、オリジナルとしては「私の中の悪魔」以来実に約2年半ぶりとなる。その間に僕が心から感動したすばらしい来日公演があったわけだけど、その時僕が彼ら(特にスチュアート・
マードックその人)に感じた印象は「意外と気さくでいい人たちだ」というものだった。本作を聞いた第一印象もまさにそういうもので、プロデューサーの影響かはわからないが、非常にクリアになった明るいサウンドとメジャーな曲調がこれまでの
ベルセバのアルバムとは一味違う開放感を感じさせてくれる。家で1人で聞くというよりはむしろ町を歩きながら聞きたいアルバムだ。
ベルセバにそんなアルバムが今まであっただろうか。かと言って、今までと180°違う音楽になったわけではもちろんなく、胸に染み込む哀愁漂うメロディーや、悲しくもおかしいキャラクターたちの悲喜こもごもの物語が織り成す切ない風景はまさに
ベルセバとしか言いようのない世界であり、聞いているうちにふっと涅槃の世界にでも引き込まれるような錯覚すら覚えてしまう。開放的なアルバムではあるが、安易な共感などせせら笑うように孤独であることの意味をその中心にしっかりと抱えている音楽である。つまりは本当の強さというものを知っている音楽である。例えば、
小沢健二の『LIFE』みたいな感じかもしれない(別にラブソングが多いというわけではないが)。アレは「書を捨てよ、恋をしよう」みたいなアルバムであったが、
ベルセバの本作は「書を捨てないで町へ出よう」という感じだろうか。
万能であり最強の
ベルセバと言えるアルバムだと思う。