無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

青春の語り部。

ハートビート (CCCD)

ハートビート (CCCD)

 GOING UNDER GROUNDは常に青春という青臭い季節をテーマとして向き合ってきたバンドだ。一瞬の出来事のようにあっという間に、しかし確実に過ぎ去っていく人生の中のひとコマ。その中で得るもの、失うもの、変わらないもの、切ない想い、それを言葉にし、甘酸っぱいメロディーと繊細な(時にちょっと弱い)アンサンブルで聞かせてきたバンドだ。その方向が今作でより固まった、というか、ひとつ彼らの中で腹を括ったような気がする。
 「主役は君と僕の/脇役のいないストーリー」1曲目「トワイライト」にあるこのフレーズが雄弁に物語っている。ここに収められた楽曲は、全て「君と僕が主役の」物語だ。青春という限られた時間の中、精一杯青臭く自分を見つめ、友人と過ごし、彼女(彼)への思いを募らせるさえない、どこにでもいる「君と僕」。それがメインソングライターである松本素生河野丈洋自身の体験に基づくものかと言えば、恐らくはそれだけではないだろう。GOING UNDER GROUNDは自らの意思として、バンドのアイデンティティとして誰しもが主役である青春のストーリーを歌うことを決意したのではないのか。(例えば、バンプ・オブ・チキンが生と死の狭間で自らの存在証明を掲げるものたちの物語を紡ぐように)そのくらいの確固たる意思が本作には流れていると思う。アレンジ、メロディー、言葉、そのどれもが彼らにとっては弱点でもありながら、「青春」というテーマを鳴らす上ではこれ以上ない武器に成り得るということを本作は示している。
 ひとつ言うと、松本が全曲ボーカルを取った方がいいんじゃないのだろうか。単純に技術的な意味で他のメンバーのボーカルは心もとないし、彼らの音楽のテーマから言っても松本の声の持つピュアネスとイノセンスは圧倒的にその世界を膨らませるアンプになるものだと思う。