無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

時にはイタコのように。

君繋ファイブエム

君繋ファイブエム

 ここ数年の邦楽ロック(洋楽もか)を普通に追いかけてきた人なら、このアルバムは何の迷いもなく素直に耳に入ってくると思う。つまりそれは、恐らくは演奏している彼らバンド自身がその時代、リスナーとして波をモロにかぶっているからだと思う(当然といえば当然だと思うけど)。音の感触、メロディーの匂い、アレンジの雰囲気、言葉のイメージ、様々な面で「ああ、90年代後半のロックが好きで聞いてきたんだね」と思わせるバンドだ。
 ぶっちゃけた話が「N.G.S」はまんまナンバーガールだし、「E」のギターソロでオアシス「リヴ・フォーエヴァー」まんまのフレーズが出てきたときはさすがに笑った。他にも、音の向こうに透けて見えるバンドの名前をいくつか挙げることは簡単にできる。だからと言って、彼らが模倣するだけにとどまっているオリジナリティの欠如したバンドかというと、僕は決してそうではないと思う。「繋ぐ」という言葉がアルバム中そこかしこに出てくるのだけど、これは単に物理的、精神的に他者とのコミュニケーションを渇望するというだけでなく、過去と未来の音を繋ぐという意味もあるのではないだろうか。そこで信じられるのは自身のリスナーとしての耳とセンスであり、かつて自分達がのめり込んだ音楽をバンド自身を媒体として再構築し現在に表出させるという、シャーマンのような音楽志向を持ったバンドなんじゃないか、と勝手に想像してみたりする。
 ただ確かにやり方があまりにもそのまますぎる、と批判する向きもあるだろうとは思う。実際僕も正直言えば模倣あるいは引用に対しての意識が少し無邪気すぎるという気はした。それだけの覚悟があって意識的にやっているのなら、今後に期待なのだけど。個人的には「夏の日、残像」とか「無限グライダー」のような、乾いた叙情性を感じさせる曲にこのバンドの色を感じますね。確かに曲は書けるし、演奏もできてるんだよな。なんだかんだ言ってもこういうバンドがヒットチャートのど真ん中に来ることは悪いことではないとは思います。