無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

一生ついていきます。

KING

KING

 プライベートスタジオである「ロックンロール研究所」で、三宅伸二をはじめとする気の合う仲間達とレコーディングを行った本作は、とてもいい。リラックスした雰囲気でも、決してユルくなりすぎることはなく、一貫して「今はこういう音を鳴らしたい」という意思が通されているからだ。曲も「Baby 何もかも」、「ウィルス」のようなSweet Soul Musicから、「WANTED」、「玩具」のようなロックンロールナンバーまで、清志郎の魅力をあますところなく伝える佳曲揃い。「奇妙な世界」のようにメッセージ色の強い曲を押し付けがましくなくあっさりと料理するあたりもセンスのよさが際立っている。「モグラマン」のファンク色もいい感じ。清志郎自身によるドラムはややバタバタするけれど、これはこれで味がある。そして「HB・2B・2H 」のような曲を単なる言葉遊びに終わらせることなく聞かせてくれるのは彼と奥田民生くらいじゃないか。正直、あまり過剰に期待せずに手の取ったものの、予想以上に今の清志郎の充実ぶりが伝わってくるいいアルバムだと思う。僕は清志郎のソロをつぶさに追いかけているわけではないけれど、何年かごとにいいヴァイヴが巡ってくるサイクルになっているような気がする。ちょうど今はいい時期なんだろう。
 清志郎が日本のロックの文法を一つ確立させたということに異論のある人はいないだろう。そして、当然のように数々の名フレーズを残している。かつて彼は「ドカドカうるさいR&Rバンド」という曲で「おれは浮ついた歌でお前の気をひくだけさ」と歌った。さらっと言っているけれど、それを実際に20 年30年とやり続けられるのはとてつもなくすごいことだと思う。日本において、年齢を重ねながらロックすることを体現することのできる数少ない人だと思う。改めて尊敬。