無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ヒロトとマーシーのTug of War。

Do!! The★MUSTANG

Do!! The★MUSTANG

 「こどもはどうしてできるの?」「なんでひとをころしちゃいけないの?」「どうしてせんそうはなくならないの?」とか、なんでもいいのだけど、子供の屈託ない視点というのは時に非常に明確にものごとの本質を射抜く力を持ち得るものだと思う。ハイロウズの音楽というのはつまりそういうことだと思う。年をとり様々な経験をすることで身につく知識や考え方をチャラにしてとことんシンプルに本質のみを条件反射的に言葉と音符に落とし込む。言葉にすればなんてことないが、それをこれだけキャリアのあるベテランバンドがやることがどれだけ困難なことか。それを彼らは半分は本能だろうが、半分は意識的にやっている。本当にえらいと思う。尊敬する。
 キーボードの白井氏が脱退して2作目となる今作では、現在のフォーマットがようやく体になじんだ感じがする。いらないものはどんどんさらに取っ払ってしまえという爽快感。自身のレーベルを設立して最初のアルバムになるが、つまりは活動上も自分たちにとって必要なものだけを残して身軽になったということだ。前にZAZEN BOYSの感想でも同じようなことを書いたけど、やってる音楽と実際の行動がリンクしてきちんと実を伴っている人たちというのはすごく信頼できる。もちろんハイロウズは最初からこちらを裏切ったことなど一度として無いのだが、ここにきてその純度はさらに透明度を増している。特にヒロトの書く歌詞はもうナンセンスすれすれの言葉の羅列になっている。本当は必要なものまで削ぎ落としてるんじゃないかというくらいにシンプルだ。ヒロトの腹のように微塵の贅肉も無い。削ぎ落とされていないのはドラムのオカズくらいなものじゃないだろうか。
 前半はマーシー作品が多く、結構ストレートにコンテンポラリーな社会批判を垣間見せる曲もあるが、後半ヒロト作の割合が増えるにつれてどんどん知能が後退していく。曲もミドルテンポのものが多いので割とリラックスした感じになるのだが、不思議と聞いた後では統一感が取れている。なんなんだろうこれは。今回も全14曲、きっちりヒロトマーシーの曲が半々。狙ってやっているのか勝手にそうなってしまうのか。ロッキングオン11月号でレノン&マッカートニーとか、ジャガー&リチャーズと言ったロックの歴史を作ったソングライターコンビの特集をしていたのだけど、そこにヒロトマーシーを入れてもいいと思った。