無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ばらいろなポップ。

ばらいろポップ

ばらいろポップ

 当たり前の話だけれども、以前のCoccoとも違うし、くるりとも違う、SINGER SONGERのデビューアルバム。
 例の沖縄での「ゴミゼロ運動」を経ての本格復活、といって言いのだろうが、ここでのCoccoは憑き物が落ちたかのように、晴れやかな表情で歌っている。休止前と現在では黒と白、夜と昼、である。しかし、すっかり根本から変わったというのとも違い、元々彼女にはこういう表現に向う資質はあったのだと思うし、今も彼女が以前のような表現に向う可能性もあるのだと思う。ちょっとしたベクトルの違い、音楽としてのアウトプットの志向性が変わったというのが大きいのだと思う。もちろん、それを呼んだのは彼女自身のスタンスの変化に他ならない。今の彼女は「歌うことは排泄と同じ」という場所には立っていないだろう。個人的には、爽やかなエロティシズムとでも言うべき詞の世界に魅力を感じた。以前の彼女だったら、もっとどぎついものになっていたと思う。
 くるりの岸田、佐藤と堀江博久という、腕利きであり曲者でもある面々がメンバーであるが、サウンドとしては非常にストレートで意図的にひねりを抑えた(或いは自然とこうなった?)ものになっている。簡単に言えばクリアであり、ポップで聞きやすい。ただちょっと微妙な所で、これは東京事変の『教育』でも感じたことなのだが、1+1が3になるようなバンドとしてのダイナミズムが希薄なのである。単にウマが合う仲間同士でバンド作りましたというものなのか、このメンバーでなければ出せない音があるからバンド組んだのか、というところがよく見えない。現在Coccoがポップシーンで歌を歌うために、このバンドが必要であるというのならわかるが、パーマネントなバンドとして活動を続ける気があるのならそれだけではやっていけないだろう。岸田や佐藤がこのバンドにいる限り、くるりと同じ事をしても意味がないしね。もし次の音源が出るのなら、もっとそれぞれのメンバーが己の核心をぶつけるような濃い表現になっていて欲しい。もちろん、僕が聞きたいのはCoccoのそれであるのです。