無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

キラキラと輝くもの。

パルス(初回限定盤)(DVD付)

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 バックホーン約1年3ヶ月ぶりの新作。ベスト盤を間に挟んだとは言え、基本的な路線は前作『THE BACK HORN』の方向性をさらに推し進めたものになっている。つまり、前作で明確に歌い始めた「希望」というものをより強く輝かせようというものだ。しかし本作には人間の強さも弱さも孤独も絶望も全て入り込んでいる。その上で「顔を上げて世界を撃て」と真正面から大声で言えるのは成長の証でもある。最も、元々バックホーンってこういう「ピンポイントで真実を射抜く」みたいなバンドだったとは思うのだけど、かつてはそれが自分の弱さを攻撃する方向に向いたり、ひいては外界へのネガティブな感情として現れることが多かった。その分音楽としてはヘヴィーでドロドロとしたものになっていたと思うのだけど、それを乗り越えて生きる希望や人間への肯定を歌えるようになったのは彼らの人間としての成長に他ならないのではないだろうか。
 元々いいメロディーを書くバンドだし、本作でもシングルであるかどうか関係なく質の高い楽曲が並んでいる。こう言ってはミもフタもないかもしれないけど、バンド史上最もセールス的にいい位置にいる今だからこそ狙って作ったアルバムとも言えるのではないか。彼らがどこまで具体的に意図して考えたかはわからないが、本能とカンだけで曲を作っていたとしたら「ガンダム」の主題歌タイアップに「罠」を出し、その後シングルで「覚醒」を切るということはできないと思う。こういうところでもバックホーンおとなになったなあと思うのである。これをセルアウトしただの何だのと言うのは間違いだと思う。実際、前作よりもさらに踏み込んだアルバムをこうして作っているのだから。強かになったと言う方が正解だと思う。
 無軌道な野性とパワーはあってもいつか空中分解するのではないかと思わせるような脆さと危うさがあったかつての(「イキルサイノウ」までの)バックホーンはもういない。その代わり、シーンの中で確固たる位置を築き、正面切って戦える強さを彼らは手に入れた。そして彼らが音を鳴らすときの真っ直ぐな目は何も変わっていない。素晴らしいことだと思う。