無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

Don't Trust Under 40. ~30年を経てエレカシが辿り着いた境地

エレファントカシマシ 30th ANNIVERSARY TOUR 2017 "THE FIGHTING MAN"
■2017/05/20@わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)

 エレカシのデビュー30周年イヤーを飾るアニバーサリーツアー。ベスト盤リリースの3月から始まり、47都道府県を回るというバンド史上最大の大規模なツアーだ。夏フェス期間を挟み、9月からツアー後半戦が始まる。アニバーサリーツアーだけに、セットリストはキャリア全般からなるべく偏らずに選曲することが求められるだろう。と同時に現在進行形のバンドであるからには過去の代表曲ばかりではなく今のバンドの姿をきちんと表現できるものにする必要もある。30年という長い期間を考えると選考は難しかったはずだ。(基本は3月発売のベスト盤中心とは言え)
 1曲目は2004年のアルバム『扉』から「歴史」だった。「歴史」は文豪・森鴎外の生涯を描くことで人間の生きる意味、人生の価値とは何で決まるのかという命題に向かい合う曲だ。30代に入ってからの宮本は多くの曲で同様のテーマを歌ってきた。エレカシ東芝EMIに在籍していたのはちょうど宮本が30代前半から40歳までである。宮本にとってエレカシというバンドは青春時代だけではなく、人生すべてを捧げてきたと言ってもいい存在だろう。そのバンドのアニバーサリーツアーでこれまでのキャリアを振り返るということは、取りも直さず自らの人生を振り返るのと同義であろう。人生や生と死を見つめ直し、言葉や音と格闘し続けていた時代を象徴する「歴史」で幕を開けたということが僕は大きな意味を持っていると思った。
 「今宵の月のように」について宮本はこんなことを言っていた。ローリングストーンズが好きで、エレカシは元々ああいうギターロックを志向していたけど、この曲ができて、アコギで感情をぶつけるみたいな曲で、ひとつ自分のスタイルを見つけた気がした。と。おそらくこの曲がヒットしていた当時の宮本ならこんなことは言わなかっただろう。アニバーサリーツアーであることもあってか、曲に対して宮本がエピソードや思いを語る場面が続く。「桜なんて嫌いなのにユニバーサルさんから言われて作った。」(桜の花、舞い上がる道を)とか「サントリーの焼酎のCM曲で、結構テレビで流れてたんだけど店で買おうとしたらお酒売ってなかった」(ハナウタ)とか。いつもの調子で的を得ない話を続ける宮本をメンバーも温かく見守る。そんなシーンも、今回のツアーの見どころかもしれない。
 最新アルバム『RAINBOW』から「3210」~「RAINBOW」、そしてデビューアルバム以前からのレパートリーであった「やさしさ」。この間に、代表曲であり重要な転換点でもあった「ガストロンジャー」が挟まるという、この流れは前半のクライマックスだった。そして本編ラストは「俺たちの明日」。人生の意味に向き合い続けた30代を経て、40代に突入した宮本がレーベル移籍して初めて出したシングル。その第一声が「さあ、がんばろうぜ」というシンプルさだったことは(割と暗黒な)東芝時代を聞いてきたファンにとってはちょっとした驚きだった。しかしこのシンプルさとヌケの良さはそれだけ宮本の悩みと葛藤が深かったことの証でもある。特に二番の歌詞「10代~」から始まる部分は、それだけ人生を生きた者でないと書けないものだったと思う。20代半ばくらいの時に宮本はこんな歌を歌ったことがある。

「歌を誰か知らないか?/つまらぬときに口ずさむ、やさしい歌を知らないか?」(「遁世」)

 30代から40代になり宮本はそんな「やさしい歌」を書けるようになった。それは、長年エレカシを聞き続けているファンはよく知っていることだと思う。かつて、「30歳を過ぎた人間を信用するな」という言葉がロックンロールの常套句だった時代があるけれど、今のエレカシを見ていると「40歳に満たない人間を信用するな」と言いたくなる。長く経験を積むことでしか表現できない境地というものは、確かにあるのだ。
 本編が終わって最初のアンコール前に宮本が「第一部終わりです。またすぐ出て来ます。」って言ったせいか、メンバーはけてステージが暗転してもしばらくアンコールの拍手が鳴り始めなかったのはものすごくエレカシっぽい場面だった。アンコール、と言ってもここから1時間近くやっていたと思う。個人的にグッと来たのは「生命賛歌」。超絶ギターリフ製造マシーンとしての石君とエレカシのバンドアンサンブルが一番ビビッドに感じられた気がする。後半はほとんど後期ツェッペリンみたいな音がしていた。このアンコールでも最新作からデビュー時まで、幅広いながらもきちんと現在進行形のバンドの姿を見せてくれていたのが頼もしい。アンコールラストはベスト盤、そしてツアータイトルにもなっている「ファイティングマン」。ベスト盤の感想にも書いたけど、ここからすべてが始まり、最後にはここに行きつくということなんだと思う。そして30年経っても尚、デビューアルバムの曲を「今の曲」としてカッコよく鳴らせるバンドが果たしてどれだけいるのかと。エレカシの「ファイティングマン」と佐野元春「アンジェリーナ」を聞くときはいつもそんなことを思う。
 ダブルアンコールラストの「花男」まで全30曲(30周年記念ツアーだけに)、約3時間。凄まじいボリュームのライブだし、これで47都道府県回るというのはバンドとしてもすごくチャレンジングなことだと思う。宮本は30歳で「悲しみの果て」を書いた。40歳の時に「俺たちの明日」を書いた。そして、昨年50歳になった宮本が書いたのは「夢を追う旅人」だ。まだまだ枯れていない。これからどんな歌を歌っていくのか、楽しみで仕方がない。

■SET LIST
1.歴史
2.今はここが真ん中さ!
3.新しい季節へキミと
4.ハロー人生!!
5.デーデ
6.悲しみの果て
7.今宵の月のように
8.戦う男
9.風に吹かれて
10.翳りゆく部屋
11.桜の花、舞い上がる道を
12.笑顔の未来へ
13.ハナウタ~遠い昔からの物語~
14.3210
15.RAINBOW
16.ガストロンジャー
17.やさしさ
18.四月の風
19.俺たちの明日
<アンコール1>
20.ズレてる方がいい
21.奴隷天国
22.いつか見た夢を
23.good morning
24.コールアンドレスポンス
25.生命賛歌
26.TEKUMAKUMAYAKON
27.夢を追う旅人
28.ファイティングマン
<アンコール2>
29.友達がいるのさ
30.花男