無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2021年・私的ベスト10~音楽編(1)~

遅ればせながらです。そもそも待っている人がいるのかあやしいものですが、自分にとっての備忘録みたいなものなので。
年々アルバムをきちんと聞きこむことが少なくなってきまして、多くても数回程度なんですよね。今回選んだ作品は単純にその中でも繰り返し楽しんだ作品という言い方もできるかなと。例年のごとく、順不同です。

まずは邦楽から5枚です。

Terminal/YUKI

Terminal

Terminal

今の時代を反映したJ-POPとして、非の打ちどころのないアルバムと思いました。シティポップ味の「My lovely ghost」に始まり、トラップ的な曲もあり、ブラックミュージックを意識した踊れる曲が多いのが前半。後半はYUKI自身がドラムを担当した「Sunday Service」など、生バンドのテイストを活かした曲が並びます。
今のシーンの空気を捉えつつ、マニアックになりすぎないバランス感覚は見事。その中で「good girl」のような「わきまえない女」をテーマにしたガールズエンパワーメントソングも披露する。まだまだYUKI最強の時代は続きそう、と思わせる1枚でした。

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WINKCHAI

WINK

WINK

  • CHAI
  • インディ・ポップ
  • ¥2139
デビュー時から日本のシーンの枠にははまらない活動をしていたバンドですが、いよいよという感じです。端的に言えば海外のオルタナティブバンドのアルバムを聞いているような印象でした。自由でありポップであり、そしてとてもキュートなアルバムだと思います。
個人的には「チョコチップかもね」とかすごく好きです。声高にではなくてもジェンダールッキズムについて歌ったと思われる曲も多く、確実に今の時代を反映したバンドだとも思います。

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Ladies In The City/Night Tempo

Ladies In The City

Ladies In The City

  • Night Tempo
  • ポップ
  • ¥2241
自分の中でも音楽シーン全体を見ても2021年は前年から引き続き80s風味が強かったなと思います。Night Tempoは韓国出身のDJですが、80年代のアイドル歌謡やシティポップを好んでミックスし、リリースしてきた人です。本作は彼にとって3年ぶりとなるオリジナル・アルバム。メジャーとしては初のアルバムとなります。
ボーカルの人選が見事で、野宮真貴BONNIE PINKから上坂すみれ山本彩など幅広い層からセレクトされています。中でも道重さゆみをフィーチャーした「Night Light」は本当に素晴らしい。アイドル歌謡でありクラブミュージックであり80sであるという、これぞNight Tempoな1曲です。刀根麻理子や国分友里恵などの起用も唸らされました。ネオシティポップの良作は多々あれど、個人的に本作は決定版じゃないかと思えるくらいのアルバムです。

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Strides/小袋成彬

小袋成彬はデビュー以来聞いているのですが、これまでは個人的にあまりピンと来ていませんでした。基本的にブラックミュージックをルーツに持つ音楽だと思うのですが肉体性やグルーヴ感よりも理屈っぽさが前に出ているように思えたのです。しかし本作は実にいい。グルーヴ感は文句なしで、歌詞のメッセージ性も押しつけがましくなく、日常の中にすっと入ってくるイメージです。
コロナ禍を念頭に置いて製作されたアルバムだと思いますし、このパンデミックの中でどういう意識をもって生きていくかというのが本作のテーマだと思います。それが"stride"=「歩幅」という言葉で表されているのがとてもしっくりきます。僕にとっては小袋成彬という人の印象が変わったアルバムです。

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心理/折坂悠太

State of Mind

State of Mind

  • 折坂悠太
  • J-Pop
  • ¥2241
2021年は長く続くコロナ禍を反映した曲やアルバムが日本に限らずたくさんあって、そうした音楽に共感したり癒されることも多くありました。折坂悠太の「トーチ」は2020年4月にリリースされた曲で、コロナではなく地震や台風などの災害をテーマにしたものです。しかしこの曲はコロナで疲れた自分の心に染みわたるものでした。作曲したbutajiもこの曲をリリースしていますが、どちらのバージョンも素晴らしい。令和の「満月の夕」になり得る名曲だと思います。
本作はそれだけではなく、随所に織り込まれたトライバルなビートや演奏も前作よりさらに勢いを増しています。繊細に言葉を紡ぐシンガーソングライターとしての一面と、土着的な音楽の中で獰猛に歌う折坂悠太と、この振り幅の広さが彼の魅力だとも思います。

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