無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

はじめての娯楽作。

座頭市 <北野武監督作品> [DVD]

座頭市 <北野武監督作品> [DVD]

 時代劇マニアや専門家からすれば言いたいことはあるのかもしれないけど、僕はものすごく面白かった。勝新太郎のイメージをあらゆる意味で払拭するたけしの『座頭市』。たけしの場合、映画における作家性と娯楽性がかなり作品ごとにばらつく傾向があって、それが結果として興行収入にも出てきてしまうのではないかと思う。『ソナチネ』や『HANA-BI』のように、作家性を突き詰めた結果エンターテインメントになってしまうような優れた作品もあるにせよ、それにしてもどどっと客が映画館に足を運ぶようなものではないのは確かだ。この『座頭市』は、そもそもが外からの依頼で作られたもので、いわばたけしは「雇われ監督」である。その結果、今までの彼の作品の中でも最も娯楽性の高い、あらゆる層の観客にアピールする商品性を得ている。そして当然、だからといって彼の監督としてのこだわりが減退したというわけでもない。例えば、死というものの描き方は明らかにたけしの従来の作品におけるそれだ。銃が剣になっただけで、一瞬でカタがつくところは同じ。死は突然現われて、何の余韻も残さない。その描写を可能にしたたけし自身による殺陣も非常に見どころがあってよかったと思う。クライマックスのたけしと浅野忠信の対決シーンも、瞬きする間に終わってしまう。このシーンはおそらくは『椿三十郎』における三船敏郎仲代達矢の対決シーンへのオマージュではないかと思うのだけど、他にもこの映画は過去の時代劇へのオマージュをちりばめながら見事にたけし独自の新しい時代劇へと昇華している。座頭市そのものの描き方もとんでもないどんでん返しがあって、居合の達人、というだけであとは全く新しい座頭市像を作り出していると思う。ラストのタップシーンも予定調和といえばそうだが、エンターテインメントをつらぬいて大団円を迎えるのならこれはありだろう。そして、そこに主人公であるはずの市の姿がないところもたけしの持つヒーロー観とでもいうものをあらわしているようで興味深い。この映画の主役は市であるが、物語の中心は決して彼ではなく、むしろ最後に笑顔をみせる農民たちであるわけだ(その意味で黒沢の『七人の侍』にも通じる)。
 たけしの映画で続編が見たいと思ったのは初めてだ(というかそもそも続編があり得る作品というのがいままでなかったのだけど)。狂言回しであるガダルカナル・タカが素晴らしかったことも記しておきます。