無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO感想(4)~今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる

■2017/8/12@石狩湾新港特設ステージ

 ZAZEN BOYSからそのままデフに残ってeastern youthか、サンステージで久保田利伸か、被りが痛い時間帯。結局、現時点で一番見たい、見ておきたいという欲求に従ってぼくのりりっくのぼうよみ。僕が移動したときにはまだそれほどレインボーは混んでいなかった。ステージ上にぼくりり本人は不在で、バンドがサウンドチェックを行っている。キーボード、ドラム、パーカッションにDJ。純粋なヒップホップとは違うと思っていたので1DJ1MCのようなスタイルではないと思っていたけど、編成は想像以上にバンドだった。ボーカルなしで「shadow」の演奏でリハを行う。かなりグルーヴィー。時間になり、いよいよ本人登場。思ったよりも小さい。そして写真で見るよりもさらに童顔。実際まだ10代だけど、子供みたいに見える。お肌もツルツルそうだ。音源とはまた違った生音を含むグルーヴに乗せて流麗なフロウとメロディーが歌われる。難解で哲学的なテーマやポップスではあまり使われない言葉のチョイスなどに独自のセンスを持つ人だと思うけど、ライブのテンションとスピード感の中では殆ど言葉は聞き取れない(速いテンポの曲だと特に)。サウンドとビートを感じて体を揺らしながら聞くのが正解なのかな。椎名林檎の「本能」のカバーをやったのだけど、この辺に彼のルーツが見えて興味深い。やはりヒップホップは彼の出自ではなくて、彼の音楽の一要素に過ぎない。独自の言語感覚を持つテン年代のポップスとして聞くべきなんだと思う。個人的にはやっぱり見ておいてよかったです。

ぼくのりりっくのぼうよみ
1.Be Noble
2.sub/objective
3.CITI
4.つきとさなぎ
5.Collapse
6.Sky's the limit
7.(新曲)
8.本能
9.lier
10.Noah's Ark

 ブレイクの時間帯、レッドスター近辺で食事をしながら小休止。次はレインボーでAwesome City Club(ACC)なのだけど、混雑が怖いので早めに移動する。テントの中で待っていたので花火が見れませんでした。残念。ACCも、今年ライブを見ておきたかったバンドの一つ。昨今のシティポップ的なサウンドを志向するバンドの中でもソングライティングやサウンドのきらびやかさでは群を抜いていると思っていた。サウンドチェックの間から声援がすごい。人気と期待感の高さがうかがえる。8月末に初のベスト盤のリリースが控えているとあって、「Awesome City Tracks」シリーズから万遍なく選ばれたセット。演奏は決して下手ではないのだけど、テープ使用も多いしバンドとしてのグルーヴやアンサンブルを感じるというよりはやはりサウンド全体のキラキラ感を楽しむという感じ。ただ、atagiのボーカルは生で聞いてもセンスを感じる。ほぼ全編ファルセットの「Cold & Dry」もキツそうな感なく歌いきる。「今夜だけ~」のように完全に男女デュエットの曲だと、バービーボーイズがシティポップをやっているような感覚。ここは強みだと思うので、こういう曲をもっと聞きたい。シティポップ感のあるバンドは一種の流行りもあるのかもしれないけど、出尽くした感があるのでこれからは淘汰が始まっていくと思う。単に雰囲気でのオシャレ感をなぞっているようなバンドは長続きしないと思う。ACCはサウンドのルーツがしっかり見えるので大丈夫だと思うし、新曲「ASAYAKE」のように、スタイリッシュと汗臭さをいいバランスで行き来できるのもいいと思う。これからも期待してます。で、PORINちゃんは本当にかわいかったんだけど、結構近くにいたPORIN推し?のやつが曲間のたびに「PORINちゃーん!PORINぢゃーーーん!ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」というテンションでうるさかったのには辟易した(後半の方はそいつが叫ぶたびに笑いが起きていた)。でもまあ、いやな顔せずにMCで軽くあしらうあたりもよかったと思います。

Awesome City Club
1.Don't think, feel
2.It's so fine
3.アウトサイダー
4.青春の胸騒ぎ
5.Cold & Dry
6.Jungle
7.Pray
8.ASAYAKE
9.今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる

https://www.instagram.com/p/BXseboehpjE/
おいパイネ食わねえか。

 急いでレッドスターに向かうと、すでにコーネリアスのステージが始まっていた。僕が聞いたのは「Drop」から。10月にツアーを見に行くこともあって、後ろの方でパイネを食べながらゆっくり見ることにする。遠かったのでメンバーはよく見えなかったんだけど、バッファロードーターの大野由美子がいたと思う。あとは堀江博久あらきゆうこかな。恐らく、ツアーもこのメンバーで回るんでしょう。楽しみ。で、このステージが凄まじくて、野外のフェスとは思えないほど映像とサウンドのシンクロ率が高い。照明はともかく、ここまで高精度な映像演出をフェスで行うのは難しいでしょう。そして音の立体感、クリアさ、音質の良さは僕が今まで野外フェスで聞いた中では1,2を争うレベルだったと思う。音でも映像でもものすごいことがステージ上で行われていたと思うんだけど、サウンドの心地よさのせいかそれほど熱狂や興奮という感じのリアクションではなかったかもしれない。ただ、本当にフェスでこのレベルのステージを体験できるのは稀有だと思うし、ツアーへの期待値がリミッター超えになるようなライブだった。これをフルサイズでライブハウスで体感できるのは本当に楽しみ。そして同時に、このステージを野外で(しかもレッドスターはハマっていた)見れたのも良かった。

Cornelius
1.いつか/どこか
2.Point of View Point
3.Helix/Spiral
4.Drop
5.Count Five or Six
6.I Hate Hate
7.夢の中で
8.Beep It
9.Fit Song
10.Gum
11.Star Fruits Surf Rider
12.あなたがいるなら

Mellow Waves

Mellow Waves

 コーネリアスはフジでも同様のハイクオリティなライヴをやっていたみたいだし、エイフェックス・ツインなんかもかなりすごい映像演出をやっていたらしい。野外のフェスでもそういうことが当たり前にできる時代になってきたのかもしれないですね。
(続く)

■RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO感想(3)~耳から飛び出る昇り龍

■2017/8/12@石狩湾新港特設ステージ

 朝起きると、結構な勢いの雨。昨夜から降り続いていたらしい。予報を見ると日曜の朝まで降るらしい。というわけで上下レインコート、長靴を装備して完全武装で臨むことにする。会場についてもやはり雨。会場外駐車場に車を止め、テントエリアに向かう。同行の友人たちはテントの中にいるのか、いないのか。とりあえず、雨の会場がどんな感じなのか探索に出た。雨が激しかったので本来なら朝食でにぎわう屋台も閑散としている。そんな中行列ができているのはやはりニセコピザ。名物のベーコンエッグロールを食べなくては、やはり一日が始まらない。雨が滴る中、木陰に入って無理矢理食べました。それでもやっぱり美味かったです。普通なら朝からでも長蛇の列になるいちごけずりもすぐ買えた。
https://www.instagram.com/p/BXrMz2yhlFD/
土砂降りの中キメた。雨混じりでもやっぱり美味い。
https://www.instagram.com/p/BXrOjopBCPP/
全然並んでないよ!

 ちょうど祭太郎のラジオ体操が始まりそうな時間だったので行ってみると、「雨に負けるなー!」的な演説を声の限りにしておりました。そしてラジオ体操へ。雨の中わざわざ集まった酔狂な人たちに、祭太郎からタオルのプレゼントが。ありがたく使わせていただきました。
 多少弱まる時間帯があるくらいで、雨は一向に止む気配がない。フェスなのでこういう時もある。そしてこういう時は腹をくくってこれもまた一興と土砂降りのフェスを楽しむしかない。そのための雨具の準備であり、完全武装だ。とはいえずっと外にいると寒いので喫煙所ブースで雨宿りしたりレッドスターカフェで温かい飲み物を飲んだりする。ほどなくしてレッドスターでこの日のオープニング、スクービードゥーのリハーサルが始まった。サウンドチェックからMOBYのドラム、「ダ・チーチーチー」が炸裂してアガりまくり。そして山下達郎RIDE ON TIME」や小田和正ラブストーリーは突然に」などを本意気でやるという熱の入ったリハーサル。「もうちょっとしたら本物のスクービードゥーが出てきますんで」というジョークで捌けていった。そして本編。雨の中集まったお客さんは彼らの音で踊りたくて来ている。そして雨も関係なく、色とりどりのレインコートや雨合羽で踊る。バンドも躍らせる。その共犯関係が楽しい。4月にリリースされたシングル「ensemble」に収録された「Last Night」にまつわるエピソードが印象的だった。彼らは現在自ら設立したCHUMPレコードというインディーレーベルを運営し、マネージメントも自分たちで行っているが、それ以前は山下達郎が所属する「スマイルカンパニー」という事務所に所属していた。独立する際に山下達郎に挨拶に行き、かけられた言葉が今も忘れられないという。「他には負けないという、自分たちだけの武器を見つけてそれを磨きなさい」「日本全国には君たちの音楽を待っている人が必ずいる。そういう人が一人でもいる限り、その人に向けて演奏しなさい」ということを言われたのだそうだ。「Last Night」はこのエピソードをそのまま歌詞にしたのだという。彼らのステージがなぜいつも熱いのか、その理由がわかる気がした。10月にリリースのニューアルバムからも1曲演奏した。後半はガンガンに盛り上げて、デビュー曲「夕焼けのメロディー」でしめる。雨関係なく踊ったし、楽しい。そしてライジングサンというフェスに対する愛もビンビンに感じる、いいステージだった。

SCOOBIE DO
1.アウェイ
2.真夜中のダンスホール
3.ensemble
4.Funki''S''t Drummer
5.バンドワゴン・ア・ゴーゴー
6.Last Night
7.Cold Dancer(新曲)
8.新しい夜明け
9.Back on
10.夕焼けのメロディー

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https://www.instagram.com/p/BXrvP3ghVTt/
今年は会場外駐車場なもんでこっちから入ることがほとんどない。
https://www.instagram.com/p/BXrva2vhc0R/
グッズ売り場前。2010年を髣髴とさせる田んぼ具合。

 16時からPROVOテントにて中村達也独り叩きという、激しくそそられるステージがあって、それまでは特に予定なし。なので、タバコ吸ったり軽く食べたりしつつ雨の会場内をぶらぶらする。今年は会場外駐車場なのでメインのヘブンズゲート側から入場していない。あのゲートの所で写真撮るのが恒例なので、一度行ってみることに。すると、メインゲート付近が雨で完全に水没していた。今日から参加の人たちも当然いるわけで、そういう人たちは荷物持って台車引いて、まずこの水たまりとはもはや言えない単なる沼を通らなくてはいけない。何という試される大地。ピンバッヂガシャやグッズ売り場の方も完全に水田化していて、2010年の大水害を彷彿とさせる。JTやコールマンブースのすぐ隣にあるクリオネのテントエリアではテントが水没しているところも散見された。来年以降の場所取りにも影響しそうな、雨の被害だった。
 中村達也独り叩き。小さなPROVOテントにドラムセットのみが置かれている。ステージと観客の距離はほんの数m程度。こんな至近距離で達也のドラムが見れる機会はそうそうないだろう。中村達也はドラムセットに座り、おもむろにプレイを始める。時に激しく、時にスローダウン、時折声を上げながら40分間叩き続けた。正真正銘ドラムのみ、ゲストや他の楽器、音は一切なし。凄まじい時間だった。中村達也は彼がドラムを叩くだけでロックンロールを体現できる次元まで来ていると思った。というか、これはもう舞踏とか書道とかそういう芸術や匠の世界にむしろ近いのじゃないかという気もする。外に向かって発散するというよりはストイックに自己探求するようなものなんじゃないだろうか。少なくとも上手いとか下手とかそういう所で彼はプレイしていないと思う。すごいと思ったし興奮したけど、それ以上にその気迫にあてられてしまったような、そんな時間だった。

 ちょっと気を落ち着かせてからデフガレージに。生で見るのは多分8年か9年ぶりだろうZAZEN BOYS。先に見た中村達也独り叩きにも通じるが、彼らもまたどこか修行僧のような雰囲気が漂うバンドである。向井秀徳の前にはキーボードはなく、ギターオリエンテッドな編成のようだ。久々なこともあって、演奏が始まっても何の曲かわからないことが多かった。軸になるアレンジそのものが大きく変わったわけではないのだけど、導入や間奏に関しては相当、変化してきている印象だ。しかし細かな変拍子が入り乱れるテンション高い演奏はやはりさすがとしか言いようがない。「COLD BEAT」の間に「泥沼」を挟んだメドレーが凄まじかった。ギターの吉兼がベース吉田一郎に口三味線で何度もリフを伝えるところがたまらなくZAZEN BOYSだった。いやギター弾けよって話なんだけど、全員の中でビートとフレーズが共有されてないと演奏が崩壊してしまうというギリギリのバランスの中で彼らの演奏は成り立っている。ライヴではそのヒリヒリした感じがよく伝わってくる。彼らのライヴを見るといつもキング・クリムゾンが頭に浮かんでくる。それはリフ主体の演奏だとか変拍子を多用するとか表面的な話ではなくて、このグルーヴを体得するまでに積み上げた訓練・鍛錬(=Discipline)の密度が透けて見えてくるからだと思う。本当にストイックなバンドだと思う。もっと長い時間で見たかった。

ZAZEN BOYS
1.Fender Telecaster
2.HIMITSU GIRL'S TOP SECRET
3.COLD BEAT~泥沼
4.Fureai
5.RIFF MAN
6.破裂音の朝
7.自問自答

(続く)

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO感想(2)~やつらの足音のバラード

■2017/8/11@石狩湾新港特設ステージ

 ねごとの後、時間的体力的にやめとこうかなと思ったけど、レッドスターに移動。ちょうどバックホーンが始まったところだった。昼間は気づかなかったのだけど、PAテントの後ろにモニタービジョンができていた。最近はサンステージでもいいくらいのビッグネームがブッキングされるレッドスターだけど、この辺にも第2のメインステージ化が見える気がした。バックホーンは比較的新しい曲から代表曲まで、いちいちツボを押さえてくる非常にいいセットリストだった。激しいだけでなく中盤の「美しい名前」でグッと静寂に引き込み、「あなたが待ってる」で温かさを感じさせるなど、緩急も抜群に上手かった。バックホーンも来年で結成20周年。10周年で2枚組ベスト出したのがついこの前のような気がしたけど、早いなあ。そんなベテランのキャリアを十分に感じさせる堂々とした貫禄のステージ。ラストの「コバルトブルー」「シンフォニア」「刃」の3連発はヤバかった。本人たちも20周年という区切りを意識しているのか、気合が入っていたと思う。久々に見たけど、すごくカッコよかった。

THE BACK HORN
1.ブラックホールバースデイ
2.魂のアリバイ
3.導火線
4.罠
5.美しい名前
6.あなたが待ってる
7.孤独を繋いで
8.コバルトブルー
9.シンフォニア
10.刃

BEST THE BACK HORN II(TYPE-A)

BEST THE BACK HORN II(TYPE-A)

https://www.instagram.com/p/BXpxXTDB-As/
レキシに民族大移動。

ここから僕も含めて稲穂を持った連中がサンステージに向けて大移動する。初日サンステージのトリというのは、つまりどうぞ時間オーバーしてくださいということか。レキシのステージを語る場合はセットリストがどうかよりも、それ以外で何の曲をやったかの方が重要だろう。2年ぶりのラサロということで北海道にちなんだ曲を目の前のカメラマンにリクエストしていた。そして当然、先にすごいライブをやったB’zについても言及する。「もう帰った?まだいる?」「やっていい?(袖のスタッフを見て)×?」みたいなやり取りがありつつも結局そして輝く稲トラソウル。曲を演奏している時間とくだらないおしゃべりの時間が同じくらいなんじゃないかと思うほど、抱腹絶倒の時間。しかしそれもこれも池ちゃんの無茶ブリにちゃんとついてくる腕利きバンドメンバーたちがいればこそ。コミックバンドは演奏がうまくなければいけない、というのは僕の持論なのだけど、それを今最も体現しているのがレキシのライブだと思っている。フェスで見るたびに稲穂の数が増えている気がする「狩りから稲作へ」で大団円かと思いきや、アンコールで「きらきら武士」を。初日のトリということで時間度外視してやり続けるかと思いきや、それほど時間オーバーせずに終わりました。

■レキシ
1.KMTR645
2.SHIKIBU
3.年貢 for you
4.KATOKU
5.狩りから稲作へ
6.きらきら武士

↓その他触った曲
やさしい気持ち
北酒場

涙のリクエスト
LOVE LOVE LOVE
稲tra soul
ALONE
君がいるだけで
いい湯だな
Missing

 For CAMPERSの深夜帯、何を見ようか悩んでいたのだけど、結局Song forムッシュかまやつに。FRIDAY NIGHT SESSIONと最後まで悩んだんだけど、稲川淳二も見たいし、今年は会場外駐車場なのでボヘミアンで見てそのまま帰れるし。と、いろいろ考えて決定。というわけでレキシ後はテントに戻り帰り支度。荷物を持ってそのままボヘミアンに向かいました。
 今年3月に亡くなったムッシュ追悼企画であるステージ、最初に登場したのはKenKen。彼がこのステージのMCも担当する。続いて登場したのはギターの山岸竜之介、そしてドラムにシシド・カフカシシド・カフカNHK朝ドラ「ひよっこ」で早苗さんといういい役をやっているのだけど、本職で見るとまた全然違う魅力にあふれている。長い髪を振りドラムを叩く姿はやはりカッコいいし、美しい。KenKenと山岸竜之介はムッシュが最後に組んだバンド、LIFE IS GROOVEのメンバーとして一緒に活動していた。山岸はまだ若干18歳。そんな年齢でムッシュの薫陶を受け、共に活動していたわけだ。実際プレイはバカ上手く、末恐ろしい。1曲目はLIFE IS GROOVEのアルバム『コンディション・ファンク』から。時折手元のサンプラーでKenKenが様々なムッシュの声を出す。ボヘミアンの森に響くムッシュの声。その辺からひょっこり顔を出しそうな雰囲気すらあった。ここからは様々なゲストが入れ替わり登場してムッシュが残した数々の名曲を演奏していく。どれもよかったけど、特に印象的なのは斉藤和義の弾き語り「やつらの足音のバラード」、charがファンキーなギターを聞かせた「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」。金子マリも登場したけど、KenKenが普通に「僕のお母さんを呼びます」と紹介してたのは微笑ましかった。ラストは全員で「フリフリ」と「バン・バン・バン」シンプルな曲だけど、今聞いても全然カッコいい。ちゃんとロックンロールしてる。スパイダーズはGSの中でも音楽的に高い評価を得ていたバンドで、それはムッシュの手腕によるところが大きかったんだと思う。アンコールで出てきたと思ったらまた全員で「バン・バン・バン」のリフを延々と続ける過剰サービスぶり。最後はムッシュの音声でメッセージが流れ、その後に自然と拍手が沸き起こった。ありがとう、ムッシュ。改めて、安らかに。

■Song For ムッシュかまやつ~LIFE IS GROOVE~
1.HIGH TIME(kenken・山岸竜之介・シシドカフカ
2.どうにかなるさ(奥田民生
3.やつらの足音のバラード(斉藤和義
4.あの時君は若かった(Char・斉藤和義
5.ノーノーボーイ(金子マリ・Char)
6.ゴロワーズを吸ったことがあるかい(金子マリ・Char)
7.エレクトリックおばあちゃん(奥田民生斉藤和義・Char)
8.フリフリ(全員)
9.バン・バン・バン(全員)

 そのままボヘミアン稲川淳二を見たのだけど、座って聞いてたのもあって半分以上寝落ち。なので話は一つも覚えてません。残念。唯一覚えているのは出てきた時と帰る時、稲川淳二が満面の笑みでこれでもかというくらいに手を振ってたこと。いい人だ。というわけで初日は終了。帰り道、すでにぽつぽつと雨が落ちてきていた。
(続く)

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO感想(1)~そして輝くウルトラソウル

■2017/8/11@石狩湾新港特設ステージ

 19回目のRSR、19回目の参加。ここまで来ると何年に何があって何を見たとか正直記憶が曖昧でごちゃ混ぜになってくる。でも、年々テントサイトやチケットが取りづらくなっていることは確かだ。特にここ数年駐車券の倍率は異常だと思う。今年は会場内は先行で全滅。会場外ですら発売初日に即完。こんなのは初めてだ。会場外駐車場は同行の友人が取ってくれたので何とかなった。でもいつもは一緒のエリアでテントを張る友人らも一部別々になってしまった。今年は通し券も完売になった。大好きなフェスが盛り上がるのはいいことだけれども、転売厨の温床になってしまうのは許せない。ただ、さすがにフェスで本人確認するのは難しいだろう。テントサイトの交換もできなくなってしまうし。まあ、そういう対策論や愚痴はまた別の話。

 直前に列島を直撃した台風5号の被害はなかったものの、天気には恵まれなかった。初日も天気は曇り。日中も少し涼しいくらいで、夜になったら防寒が必要になるのは確実な気温だった。今年は久々に会場外駐車場だったけど、入りは割とスムーズ。駐車したのは10時くらいだったけれど、比較的会場に近い方に停めることができた。フォレストゲート側からの入場はそんなに混雑も無し。その代わり入場してからテントエリア(今年はエビ)まで荷物を持って歩くのが非常につらい。会場内駐車場からヘブンズゲートの入場は逆に列が長くて大変だけど移動距離は短い。結局テントサイト引換までにかかるトータル時間はあまり変わらない気がする。
https://www.instagram.com/p/BXo9K7khNAD/
けずり初め。
https://www.instagram.com/p/BXpAdTeBKpD/
なると屋ザンギカレー。

 テントを張り終え、曇天の中乾杯。何はともあれ、これがないとフェスは始まらない。最初はレインボーシャングリラで清水ミチコを見ようと思っていたのだけど、その前にレッドスターチャラン・ポ・ランタンに足が止まる。以前ボヘミアンで見たことがあったけど、その時は2人だった。今回はバンドでの出演。「逃げ恥」のオープニング曲「進め、たまに逃げても」やフリッパーズ・ギターのカバー「恋とマシンガン」など、大いに盛り上がっていた。こちらも魅力的だったのだけど、予定通り清水ミチコに移動。すでにレインボーのテントから人が溢れだしていた。なんとか横からステージが見える位置まで移動。

 清水ミチコのネタはTVで見たことはあってもライブは初めて。特にフェスという場でどんなステージになるのか楽しみだった。まずは天龍源一郎や「夢で逢えたら」世代には懐かしのミドリちゃんネタなどで場をあっためる。「百年使える声の歌」ということでピアノを弾きながら0歳代から10代、20代、そして100歳までといろんな世代のものまねを披露。イクラちゃん→藤田ニコル能年玲奈山口もえ杉本彩中森明菜→高畑敦子→市原悦子黒柳徹子瀬戸内寂聴→金さん銀さんという感じでした。続いては井上陽水デヴィ夫人瀬川瑛子でアナ雪のレリゴー。個々のモノマネの出来にはばらつきはあるものの、ネタの目の付け所と声の引き出しの多さはすごい。今回フェスに出ない人特集で中島みゆき矢野顕子清志郎美輪明宏、森山良子、秋山雅史を。男性の声を女性がマネするとどこか無理が出るように思うんだけど、清水ミチコはあまり感じないです。続いては作曲法シリーズ。これはアーティストの曲あるある的なネタ。○○が何々を歌ったら、とか○○っぽい曲をやってみるとか、メロディーやコード進行をマネしてネタにする人もいるけれど(マキタスポーツや馬と魚など)、目の付け所は似てると思う。むしろそのハシリと言えるのかも。映像と文字を使って音に合わせてオチをつけるのも決まってた。サカナクションの「音、止まる」は笑った。最後はひとりフェスメドレーでいろいろな人のまねを。これも文字使って笑いどころを演出してました。ちなみにゲスの極み乙女川谷絵音は(田中真紀子クマのプーさん)÷2でできるそうで(笑)。面白かったし、きちんと音楽的だし、長年培った本当の芸だと思いました。ホールでのワンマン公演も見てみたい。のっけからいいものを見ました。

清水ミチコ
天龍源一郎
ミドリ
百年使える声の歌
アナ雪(陽水、デヴィ夫人瀬川瑛子
100円くらいのお菓子の歌
中島みゆき
矢野顕子
忌野清志郎
美輪明宏
森山良子
松任谷由実
秋川雅史
・作曲法シリーズ
スピッツ
山下達郎
サカナクション
椎名林檎
ミスチル
・ひとりフェスメドレー
UA
YUKI
クリープハイプ
ゲスの極み乙女
いきものがかり

 近年のRSRでは各ステージのみならず、RED STAR CAFÉやTAIRA-CREW、PROVOテントなどでゲリラ的にライブが行われることも多い。実際には本当にその場で決まっているわけはないにしても、情報が出回るのは口コミや当日張り出されるタイムテーブル、SNSでの情報が主だった。今年から?入場時に配布されるマップ・タイムテーブルにも上記3ステージのスケジュールが記載されたので非常に助かった。というわけでリトル・クリーチャーズを見にPROVOテントへ移動。

 狭いステージに三人だけの非常にシンプルなセット。集まっているのは数十人か。ステージと最前列の距離もほんの2,3メートル。こんな至近距離で職人たちのライブが見れるなんて贅沢という他ない。昨年発表の『未知のアルバム』から何曲か演奏し、「moscuito curtain」へ。「19の時に作った曲です」と、セカンドアルバムから「suddenly (I’m home)」。新旧織り交ぜながら渋みのある、奥深い演奏を聞かせる。彼らは僕と同学年で、10代でデビューした時から幅広い音楽知識と優れたセンスを見せていた。当時は背伸びしすぎの感があったけれども、40代半ばになるとちょうど身の丈という感じがする。本当にカッコいい。「House of piano」では青柳拓次がその場でギターフレーズをサンプリングしながら次々と音の厚みを増していく。打ち込み無くても完全に躍らせるためのビート。小さいステージでもやっていることはとてつもない。ホントによかった。ベースの鈴木正人がタイラクルーでの青柳拓次のステージを宣伝したら青柳が「君もやるでしょ、今日。レキシで。」と返す。「アッチはほら、何も言わなくても勝手に人が来るから。」と鈴木。中々見れない素のやりとりも微笑ましかった。

 後ろ髪引かれながらPROVOを後にする。サンステージに近づくと大歓声が聞こえてきた。B’zが登場したらしい。そしてすごい人の数。スタンディングゾーン、レジャーサイトのみならず通路まで人がびっしりと溢れかえっている。中の方の人口密度まではわからないけれど、19年間参加してきてこれはRSR史上最高動員じゃないかと思った。なんとか人の波をかき分けてレジャーサイトの端っこに移動。ステージは遠いけど、ビジョンははっきり見える。1曲目から「さまよえる蒼い弾丸」、そして「Lier! Lier!」。松本のギターがそのまま生で聞こえてくる衝撃と感動。「Mステのオープニングだ!」って思いましたよマジで。そして稲葉浩志というボーカルのとんでもなさ。ステージ動きながらあの声の伸び、張り、音の確かさはハンパないです。周りのバンドメンバーもすごい。僕はそこまでファンじゃないのでどういうミュージシャン達がいたのかわからないんですが、金髪イケメンのドラムは特に凄まじかったです。完全に世界基準。毎年のように何万人の前で演奏している彼らにしてみればフェスのメインステージなんて大したことはないのかもしれないけど、ファンも冷やかし気分の一見さんも巻き込んで圧倒的にその場を掌握するスタジアムバンドとしての力は本当にすごい。しかもこのセットリスト。シングル曲しかやってないのに、懐メロ大会にもならずコアなファンも満足させる。今まで多くのレジェンドアーティストをフェスで見てきましたけど、その中でも屈指のステージだったと思います。正直この時点で今年のベストアクトはもう決まっちゃったかなという感じでした。

■B'z
1.さまよえる蒼い弾丸
2.Lier! Lier!
3.さよなら傷だらけの日々よ
4.有頂天
5.裸足の女神
6.イチブトゼンブ
7.Still Alive
8.衝動
9.juice
10.ギリギリchop
12.ultra soul

  B’z後はまさに民族大移動の様相で、抜け出すのも大変だった。余韻に浸りつつグッズなどを見てデフガレージに移動。ねごとのサウンドチェック、本人たちが行っていた。その流れでリハ演奏に。「ループ」から、最新シングルとして発売されるスピッツのカバー「空も飛べるはず」。一旦退場し、改めて本編スタート。代表曲「カロン」から、新曲「ALL RIGHT」、そしてBOOM BOOM SATELLITES中野雅之がサウンドプロデュースを務めた「DANCER IN THE HANABIRA」へ。後半ではギターの沙田やベースの藤咲はキーボードやシンセサイザーの前に立つことが多くなり、『ETERNAL BEAT』ではっきりしたダンスミュージックへのアプローチがライブでも前面に出るようになる。蒼山幸子のボーカルはデジタルサウンドとの相性がいいとは思いつつも、きちんとバンドのアンサンブルを押えた中でEDMも取り込んでほしいと個人的には思ったりする(今のところいいバランスだと思いますが)。メンバー全員が曲作りに参加するバンドだけど、特に沙田瑞紀という人のソングライティング能力は非常に高いと思っているので、単純にもっと売れればいいなあと。そんなことを思いました。メンバー全員キュートで魅力的なバンドだけど、僕の隣でずっと踊っていた小学生くらいの男の子がすごくかわいかった。

■ねごと
リハ:ループ、空も飛べるはず
1.カロン
2.ALL RIGHT
3.DANCER IN THE HANABIRA
4.シンクロマニカ
5.ETERNAL BEAT
6.アシンメトリ

(続く)

拘りとマニアックとわかりやすさと。

山下達郎 「PERFORMANCE 2017」
■2017/07/01@神戸国際会館こくさいホール
■2017/08/15@ニトリ文化ホール

 前回の『PERFORMANCE2015-2016』ツアー終了からほぼ1年、今年も達郎氏のツアーが行われている。御年64歳。こうして衰えないパフォーマンスを見られるのはファンとして幸せだし、本当にうれしい。「ポケット・ミュージック」のコーラスSEをバックにメンバーが登場。前回ツアーと変わらぬ布陣。ステージセットは鉄道のガード下の風景をテーマにしていて、シカゴの町っぽい雰囲気。今回のツアーはアルバムやリイシュー盤のリリースタイミングでもなければ、前回のようにデビュー40周年的な冠もないツアーなので、特に制限もなくやりたい曲を自由にやるという。前々回の『マニアックツアー』とも違い、わかりやすい選曲で行こうと思ったのだそうだ。前回は秋から冬にかけてのツアーで、ツアー中4度も風邪をひいてしまったとのこと。もう冬のツアーはこりごり、今回は春から夏にかけてのツアーなので気分も盛り上がる。ということで夏がテーマの曲を多く選んだということだ。ワクワクする。

 『RIDE ON TIME』や『FOR YOU』がヒットしていた時期は「夏だ!海だ!タツローだ!」とどこかの雑誌でコピーがつけられ、夏の代名詞のように扱われた。でもその数年後に「クリスマス・イヴ」がヒットするとガラッと変わってしまった、と彼は笑う。2008年にツアー活動を再開してからはライブが思うようにできなかった90年代を含め20~30年間ステージやっていなかった曲も取り上げるように意識してきたという。現メンバーになって練習した曲は約80曲あり、達郎氏の全楽曲のほぼ3分の1にあたるという。しかしどうしてもライヴで再現できない曲もある。例えば楽曲のキー設定として音程が非常に高いもの。1曲なら歌えても、3時間のライブをやるにはどうしても負担が大きいので無理なのだそうだ(「ヘロン」など)。じゃあキーを下げればいいだろうという意見もあるが、そんなことをしたら「あいつももう衰えた」などと言われるのでやらない、と冗談めかして言う。あとはいわゆる「ウォール・オブ・サウンド」系の、音数が非常に多いもの(「ヘロン」「踊ろよ、フィッシュ」「サウスバウンドNo.9」など)。音数はテープの助けを借りれば演奏できないこともないが、達郎氏の拘りで極力やりたくないという。テープ流しっぱなしだったり、ドラマーがずっとイヤモニでドンカマを聴いてるようなライヴはしたくないのだそうだ。「今はどこもかしこもテープ出し、プロンプターだらけ。下手すりゃ口パクですよ」と達郎氏は嘆く。達郎氏のライブでテープの助けを借りるのは一人アカペラのバックコーラス、「クリスマス・イブ」間奏部の多重コーラスの他はほとんどない。「我々のライブは正真正銘、メンバーがリアルタイムで出している音です」と自信を持って達郎氏は言う。今回のツアーは初心者でも大丈夫なわかりやすいセットだと言ったが、こうしたライブでのこだわりを聞くと十分にマニアックだと思う。

 最近は他のアーティストに提供した曲のセルフカバーもやるようになった達郎氏。元々職業作曲家に憧れがあった達郎氏は、曲提供のオファーがあるとやはりその人の音域や雰囲気に合わせて作曲をするそうだ。なので、セルフカバーをやろうとするとどうしても自分のキャラクターに合わないものが出てしまう。若い頃はそれが嫌でやらなかったが、64歳になればもうどうでもいい、むしろ面白いんじゃないかと思うようになったという。というわけで1988年に鈴木雅之に書いた「Guilty」を演奏。当時鈴木氏に書いた曲では「おやすみロージー」は幾度となく演奏しているけれど、これは初めて。なかなか貴重な演奏になったのではないでしょうか。ライブでの再現が難しい曲にも、全く編成を変えてしまうと成立するものがあるという。通常のツアーではなくファンクラブ向けのイベントなどで狭いライブハウスで演奏するときにはいつものメンバーではできないので、いわゆるアンプラグド的な編成になる。ベース伊藤広規氏、キーボード難波弘之氏と達郎氏のトリオ編成で「ターナーの汽罐車」を。この曲もどうしてもバンドだと上手く行かないのが、この編成の方がしっくりくるという。近年のツアーでは恒例のカバー曲も披露。前回のツアーではちょうどクリント・イーストウッド監督作の『ジャージー・ボーイズ』が公開していたこともあってフランキー・ヴァリの「君の瞳に恋してる」を演奏した。これがあまりにもウケて評判になってしまい、ツアー後半はちょっと癪に障ったのだそうだ。「Guilty」に続きちょっとキャラが違うところから、トム・ジョーンズ「よくあることさ」を。確かにトム・ジョーンズと達郎氏ではキャラが違うけど、非常にソウルフルで個人的には合っていたと思いますよ。

 達郎氏はそもそもあまりメディアに出ない人だし、ましてや音楽以外の話をすることはまずない。今は政情不安、国際問題など、ミュージシャンが直接的にモノをいうケースも増えている時代だ。達郎氏ももちろんそれを否定するつもりはないが、音楽家は音楽で現実を語ればいいのだと言う。言いたいことは音楽に込めるのだと。そう言い切って「THE WAR SONG」を演奏した。まさに、音楽家としての山下達郎の矜持がそこにあった。31年前に書かれたこの曲が今でも有効なメッセージとして響いていることに、改めて氏の音楽の普遍性を感じずにはいられない。

 一人アカペラコーナーもやはり「わかりやすさ」をテーマに有名どころから2曲を選曲。そして暗闇の中、『シーズンズ・グリーティングス』20周年盤にボーナストラックとして収録された「Joy to the Wold(もろびとこぞりて)」が流れる。そのまま「クリスマス・イヴ」へ。夏がテーマと言ってもこの曲は外せない。オーストラリアで真夏のビーチにサンタクロースが現れるようなものかもしれない。今回のツアーではこの数年多く演奏されてきた「希望という名の光」ではなく「蒼氓」がセットに入った。「希望という名の光」は元々映画の主題歌として書き下ろされた曲だが、東日本大震災を経て全く別の文脈で聞きつがれ広がっていき、新しい意味を与えられた曲だ。いわゆる「曲が作り手を離れて独り歩きした」という現象である。「蒼氓」はアルバム『僕の中の少年』に収録された、達郎氏が35歳の時に発表された曲だ。山下達郎というアーティストがなぜ、誰に向けて音楽を作るのか。自らが曲を書き、歌う意味とは何なのか。ひいては、自分の人生における最終的なゴールとは何なのか。不惑を前にそうした根本的な人生への問いに向き合った、非常に重要な曲だ。「希望という名の光」の間奏部分では様々な曲がメドレー的に挿入されるが、必ずと言っていいほど最後は「蒼氓」が歌われる。

「ちっぽけな街に生まれ 人ごみの中を生きる 数知れぬ人々の 魂に届く様に」
「憧れや名誉はいらない 華やかな夢もほしくない 生き続けることの意味 それだけを待ち望んでいたい」(「蒼氓」より)

希望という名の光」は震災で傷ついた人々の心にささやかでも光を灯す曲として多くの人に愛されることになった。それはまさに、「数知れぬ人々の魂」に届いたということに他ならない。達郎氏はMCで言う。「音楽は世の中を変えたりすることはできない。でも聞いた人に寄り添い、心を癒したり、気分転換になったりすることくらいはできる。自分にとってはそれで十分なのです。」今回、「蒼氓」の間奏部分でも様々な曲が歌われた。「ピープル・ゲット・レディ」「風に吹かれて」「私たちの望むものは」そして、最後に歌われたのが「希望という名の光」だった。エモーショナルな意味においては、ここが僕にとってこの日のライブのクライマックスだった。今まで達郎氏の音楽を聴いてきた「数知れぬ人々」の一人である自分にとっても、一本の筋がきちっと通った瞬間だった。

 ライブはここから終盤へ向けてギアを上げていく。「LET'S DANCE BABY」ではやはり間奏部に「Summertime Blues」「Let's Kiss the Sun」「踊ろよ、フィッシュ」昨年リリースの「Cheer up the summer」など、夏がテーマの曲をちりばめて夏気分を盛り上げる。そのまま「高気圧ガール」の流れは気持ちよい。本編ラストは「CIRCUS TOWN」。ここまで約2時間45分。当然、アンコール入れれば3時間超えは確実の様相。達郎氏は今回のツアーで目標にしていたことがあるという。それは「3時間切り」。しかしここまで、一度も達成できていないという。観客としては、ぜひこのまま達成しないでツアーを終えてもらいたい(間違いなくそうなるでしょうが)。

 キャラじゃない曲をたくさんやったので、アンコールでもとことんキャラじゃない曲を。「しかし、正真正銘私の書いた曲です」ということで近藤真彦の「ハイティーン・ブギ」を。Kinki Kidsへの提供曲のセルフカバーはあるけれど、この曲の達郎バージョンは初めて聞いた。世代にもよるだろうけど、山下達郎作曲と知らない人も少なくないかもしれない。確かにキャラではないけれど、観客の平均年齢的にもこれは盛り上がった。「RIDE ON TIME」ではおなじみの間奏でのR&Rタイムと、ラストの生声パフォーマンス。「LET'S DANCE BABY」での客席クラッカーもそうだが、自然発生的に起こったお約束や毎回恒例のパフォーマンスに対して、達郎氏は肯定的だ。落語好きで知られる達郎氏は同じ噺を何度やっても笑いのとれる噺家のように、毎度毎度同じことをやっても客を盛り上げられてこそ、と思っているフシがある。客が飽きるかこっちが飽きるか勝負だくらいに思っているのかもしれない。アーティストによってはあえてヒット曲や代表曲をやらないということも普通にある中で、かたくなに「LET'S DANCE BABY」を37年間セットから外さないところにも、達郎氏のライブへの拘りが見て取れる。

 今回のツアーパンフには達郎氏のライブとレコードの違い、音の再現性等について、デビュー時から現在までたっぷりと語ったインタビュー記事が載っている。毎度のことではあるがかなり読み応えがあって面白い。MCでも語っているが、ライブでやれる曲やれない曲というのはどうしても出てくる。それでも毎度ツアーの時には数ある曲のうち何を削るかの作業になるという。毎度のように演奏される定番曲はあってもツアーごとにセットは異なるし、その曲を選んだ理由も彼の中にはしっかりと存在する。もちろん、ステージでやるとなればきっちりと演奏できるメンバーへの信頼もあってこそだ。現在のバンドメンバー、達郎氏を入れた6リズムセクション山下達郎、小笠原巧海、伊藤広規佐橋佳幸難波弘之、柴田俊文)は達郎氏のキャリアの中でも自信を持ってベストメンバーであると言い切る。古参のファンには異論もあるかもしれないが、達郎氏はそういう意見は気にしていないだろう。青山純氏が亡くなった時、自身のラジオでも達郎氏は言っていた。

現在ではですね、押しも押されぬトップドラマーであります青山純という人ですら、彼を私が起用した当初はですね、スタッフや聴衆から、なぜそんな無名のミュージシャンを使うのかと反対されたり・・・攻撃されたりもしました。
(中略)
芸事というのは、観る側にとっては自分の歴史の投影、自分史ですね、自分史の投影、自分史の対象化、そうした結果であります。歌舞伎とか伝統芸能、落語なんかの世界ですとですね、必ず先代は良かった、と。お前の芸なんて、先代に比べれば・・・という
そういう昔はよかったというですね・・・まさに自分史の反映としての芸事の評価というのが、昔からございます。ですが、古い世代というのは新しい世代に対する寛容さというのを常に持っていなければならないと、僕は常に考えております。

http://yamashitatatsuro.blog78.fc2.com/blog-date-201401.html

 山下達郎の音楽は普遍的だとよく言われる。しかしそれを実現するには同じことをしていては不可能だ。時代の変化、レコーディング技術の変化に伴い常に試行錯誤し、自分の望む音を追い求める。バンドメンバーにしてもしかり。拘るべき部分と柔軟に変化を受け入れる部分をしっかり見極めているからこそ、長年に渡って聴く者を魅了し続けるのだと思う。わかりやすさを目指したという今回のツアーで、むしろ山下達郎というアーティストのマニアックなまでの拘りが浮かび上がってきた気がした。

■SET LIST
1.SPARKLE
2.いつか
3.DONUT SONG
4.僕らの夏の夢
5.風の回廊
6.Guilty
7.FUTARI
8.潮騒
9.ターナーの汽罐車
10.It's Not Unusual
11.THE WAR SONG
12.So Much In Love
13.Stand By Me
14.Joy To The World~クリスマス・イヴ
15.蒼氓
16.ゲット・バック・イン・ラヴ
17.メリーゴーラウンド
18.LET'S DANCE BABY
19.高気圧ガール
20.CIRCUS TOWN
<アンコール>
21.ハイティーン・ブギ
22.RIDE ON TIME
23.DOWN TOWN
24.YOUR EYES