無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

少しだけ優しくなってみよう。

アメリ [DVD]

アメリ [DVD]

 アメリは小さい頃から空想の世界にひきこもりがちな女の子。クリームブリュレのカリカリの焦げ目をスプーンでつぶすことが好き。趣味は、サンマルタン運河で水切りをすること(水きり用の石をポケットにいつもしのばせている)。アメリは、ふとしたことがきっかけで他人を少しだけ幸せにすることに喜びを感じ、それを自分の使命だと思うようになる。時には嘘も使い、他人の人生に干渉する。自分がやられたらと思うとたまったものではないが、映画の中ではそれは温かく優しい悪戯でしかない。他人を幸せにすることに一生懸命なアメリも、自分の幸せには非常に消極的だ。興味を惹かれた青年ニノにも、悪戯を仕掛けるだけで自分の気持ちを打ち明けられない。目の前にニノがいても声もかけられない。こういう、アメリみたいな女の子が果たしてどれだけいるのかはわからないけれども、男でも女でもアメリに共感する気持ちはあると思う。それは、主演のオデレイ・トトゥがあまりに魅力的だからというのも一因だろう。当初はエミリー・ワトソンがこの役をやるはずだったらしいが、映画を見た後では彼女以外に考えられないほどのキャスティングだと思う。映画のラスト、アメリは自分のことを心配してくれる人間の手によって逆に悪戯を仕掛けられ、ようやく最後の一歩を踏み出すことになる。
 この映画に出てくる人々は、皆どこか変わっているけれども普通に生活する市井の人々だ。そんな普通の人々が織り成す、現代のパリを舞台にした心温まるファンタジー。見た後で、自分も優しくなったような気がする、そんな幸せな気分になれる映画。公開から随分と時間がたったけども、まだ劇場は立ち見が出るほどの盛況だった。個人的には、登場人物のこだわりとか、設定がいちいち細かいのが好きだった(ナレーションも絶品)。