無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

シネマ坊主

松本人志のシネマ坊主

松本人志のシネマ坊主

 「日経エンタテイメント!」に連載していた映画コラムをまとめた本なのだけど、これが面白い。まず、あとがきにも自ら書いているように彼は元々映画ファンというほど映画を見る人間ではない。それは最初に文章を読んだ時点ですぐわかる。そういう、映画については素人の著者が、ズバズバと本質的な指摘をしているのである。これは、僕が彼の大ファンだから言うわけではないけども、かなりすごいと思う。尊敬する。
 こういうことは、彼だけでなく、何の分野にもあるものだと思う。その分野について畑違いの人がその辺の専門家よりも鋭いことがわかってしまう。それはその人自身が基本的な部分で物事を理解しているということなのだと思う。簡単に言うと「わかってる人なんだなあ」ということ。音楽にしても絵や芸術品にしても、全く知識がなくても「これはこういうことでしょ」「これはこうじゃなきゃダメでしょ」「これはイカンのじゃないの」そういうことが直感としてわかってしまう人というのはいるものだ。悲しいかな自分はそうではないので、羨ましいと思ってしまう。個人的には、「海の上のピアニスト」、「ストレイト・ストーリー」、「マルコビッチの穴」の話なんか、かなりドキッとしたなあ。「おおっ」と思った。でも意外と監督とか役者の名前とかは覚えていたりするあたり、少なからず興味はあるのだろう。でも彼が映画を撮るとは今のところ思えないけれども。
 今では少ないのかもしれないけど、この本を読んで彼の映画の趣味嗜好の基準を意外に思う人ももしかしたらいるかもしれない。でも僕は基本的に彼はすごくロマンチストだと思うし、「ごっつええ感じ」時代から、特に『VISUALBUM』の彼のコントを見るとすごくよくわかる部分も多かった。芸人・松本人志の頭の中を別の角度から見るという意味でも興味深い文章が多いと思う。
 松本人志にも映画にも興味がない人にはお勧めしないけど、どちらかに興味があれば読んでみて損はない本だと思う。